カルヴィッキの透明性
https://scrapbox.io/files/6188331bb35636001d5fcc5f.jpg
ジョン・カルヴィッキ(John V. Kulvicki)
現代の分析美学者。描写の哲学のサーベイ論文や入門書を書くなど、整理屋としての能力が非常に高い。人気がないグッドマン理論の数少ないフォロワー。画像だけでなく、地図やfMRIなどのちょっと変わったタイプの記号システムの特徴も考えている(そのへんもグッドマンっぽい)。
文献
John Kulvicki, On Images: Their Structure and Content (Oxford: Oxford University Press, 2006).
Images (Routledge, 2014)とは別の本なので注意。
On Imagesは研究書で自分の立場を提示しているもの、Imagesは描写の哲学の入門書で幅広く論点や諸説を紹介しているもの。
グッドマン理論の継承
カルヴィッキは、記号システムの観点から画像の独特さを考えるという構造説の路線を完全に受け継いでいる。タイプ/トークンなどの枠組みについてもほぼそのまま。
グッドマンによる画像的記号システムの3つの特徴(統語論的稠密、意味論的稠密、相対的充満)も、それぞれマイナーチェンジしたかたちではあるが、おおむね受け継いでいる。
カルヴィッキでは、3つの特徴に対してそれぞれ「統語論的敏感さ(syntactic sensitivity)」「意味論的豊かさ(semantic richness)」「相対的充満」という用語があてられる。
マイナーチェンジの内容は、下記記事の「画像一般の特徴」を参照:
①が統語論的敏感さ、②が相対的充満、③が意味論的豊かさ、④が透明性の説明。
透明性
カルヴィッキが構造説に加えたもっとも大きい変化は、「透明性(transparency)」という概念を導入した点にある。
この概念は、素朴な類似説が想定するような直観を、知覚という観点を持ち出すことなく説明するためのもの。
下記論文から引用:
「Kulvicki によれば、Goodmanが挙げる三つの特徴に「透明性」(transparency)を加えた四つの項目が、ある記号システムが画像的であるための必要十分条件である (Kulvicki 2003: 324; 2006a: 63)。Kulvickiによる「透明性」の定義 (2006a: 53)は、おおよそ以下のようなものである。ある記号システムSにおいてなんらかの対象(たとえばトマト)を表す記号を R とする。同じ記号システムSにおいてR(たとえばトマトを表す記号)を表す記号をRRとする。このとき、任意のRとRRについて、RとRRが同じ記号タイプである(統語論的に同一である)ような場合に、S は透明である。つまり、ある記号の記号がその元の記号とタイプとして同じであるとき、そのシステムは透明である。」
「このような特徴は、言語的な記号システムにはない (Kulvicki 2006b: 542-543)。たとえば、日本語の書き言葉においてトマトを表す記号である「トマト」を日本語の書き言葉で表そうとすると、「トマトを表す語」や引用符つきの「『トマト』」といった記号になる。これらは、「トマト」という記号とはタイプとして異なる。そのかぎりで、この記号システムは透明ではない。一方、画像的な記号システムにおいては、一般に、ある画像は、その画像の画像と統語論的に同一である。たとえば、トマトを撮った写真R と、Rを撮った写真RRはそっくり(just like)なものになるわけであり、結果としてRRはRと同じタイプの記号として働くことになる。これが透明性という特徴にほかならない。」
「Kulvicki によれば、透明な記号システムにおいては、RRは、それが表すRの諸特徴の多くをそれ自身として持つことになる。同様に、R は、それが表す対象の諸特徴の多くをそれ自身として持つことになる。たとえば、トマトを描いた絵は、トマトが持つ特徴の多くをそれ自身としても持つ。構造説は、「透明性」という概念を導入することで、〈画像はその描出対象に類似している〉というわれわれの直観を、知覚という観点を持ち出すことなく十分に説明することができる (Kulvicki 2006a: 82-93)。」