DescriptionとDepiction
Q. 「描写」というときに勝手にdescriptionを思い浮かべていて、シラバスを読んではじめてdepictionというものを知りました。そこで疑問なのですが、depictionというのはdescriptionの下位概念に当たるものなのでしょうか? それともまったく別、というか別系統の概念なのでしょうか?
A.
描写の哲学の文脈での言葉遣いでは、description(記述)とdepiction(描写)はともにrepresentation(表象)の下位概念です。"description"はlinguistic representation(言語表象)、"depiction"はpictorial representation(画像表象)をそれぞれ指します。つまり、両者は親子関係ではなくきょうだい関係です。
表象の下位概念には、ほかにもいろいろな種類があります。譜面(notation)や図表(diagram)も表象の一種ですし、コンピュータシミュレーションや三次元模型なども表象の一種です。
ここでの「表象」はどういう意味か、さまざまな種類の表象はどういう点で違うのか、などは第4回の授業で少し説明します。
ややこしい話①
古めの美学の言葉遣いだと、"representation"が"depiction"と同じ意味で使われることがしばしばありました。またその場合の日本語訳は「再現」とされることが多かったです。
この用法は現在ではほぼ見ません。現在では、上に述べたように、representationはdepictionの上位概念です。
ややこしい話②
別の回でまた説明するかもしれませんが、この授業で言う「表象(representation)」は、認知科学/心の哲学/近代哲学/etc.で使われる意味での「表象」とはちょっと違う意味です(完全に違う意味でもありませんが)。
前者は、具体的な言語表現やグラフや地図や絵など、何かを表しているもの(およびその働き)のこと、後者は、雑に言えば心のうちに浮かぶ外界のものの像のことです。
まぎらわしいので、後者に言及する場合はつねに「心的表象(mental representation)」と呼ぶことにします。
描写の哲学では、場合によっては両方の用法が混じることがあるので、2つの用法があることに慣れていないと混乱します。
ややこしい話③
言語哲学だと、「記述(description)」が、たんなる言語表現一般ではなく、もうちょっと特殊な言語表現を限定して指すのに使われることがあります。「確定記述」や「指示の記述説」などと言う場合の「記述」です。
この意味での記述概念を詳しく説明する余裕はないですが、大まかに言えば、文法上の名詞句に相当するものだと考えてよいです。"the present king of France(現在のフランス国王)"や"a cat on a mat(マットの上にいる猫)"などがこの意味での記述の例です。
参考:Descriptions (Stanford Encyclopedia of Philosophy)