変わる読書と変わらぬ魅力
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はじめに
今日は2024年12月7日、二十四節気の大雪(たいせつ)です。名前の通り、雪が降り積もる頃とされていますが、こちらではまだ紅葉が秋の彩りを添えています。今年は11月の暑さも相まって、ようやく秋らしさを感じられるようになりました。
私は雪国に近い地域で生まれたこともあり、この季節になると川端康成さんの『雪国』の冒頭、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。」という一文を思い浮かべます。
そして、秋といえば読書の季節。この時期に改めて文学作品の魅力に触れるのも良いものです。
そこで、今回は『変わる読書と変わらぬ魅力』と題し、文学作品の魅力を自分なりに考え、2024年11月29日に発表された日本出版販売株式会社による年間ベストセラーを元に、今年の読書傾向を考察してみたいと思います。
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本のジャンル
文学・評論(小説・詩歌・エッセー)
ノンフィクション(思想・社会・科学)
ビジネス・経済(ビジネス実用・経済学・経済学)
歴史・地理(日本史・世界史)
政治・社会(社会学・政治)
芸能・エンターテインメント(演劇・音楽)
アート・建築・デザイン(絵画・伝統文化)
人文・思想・宗教(哲学・心理学)
暮らし・健康・料理(クッキング・家庭医療)
サイエンス・テクノロジー(生物・地球科学)
趣味・実用(マナー・コレクション)
教育・自己啓発(参考書・勉強法)
スポーツ・アウトドア(スポーツ・登山)
辞典・年鑑・本・ことば(図書館・国語辞典)
音楽(音楽理論)
旅行・紀行(海外旅行・日本旅行)
絵本・児童書(読み物・絵本)
コミックス(コミック)
こう見ると、本のジャンルは多いですね。
その中で今回注目するのは『文学・評論』です。特に小説、詩、俳句の魅力をお伝えします。
小説の良さ
読書好き、特に小説が好きな人の中で王道としてよく聞くのが『自分では経験できない人生を疑似的に体験できること』です。
「それなら、映像作品で良いのではないか」という意見もありますが、その通りです。
映像作品と比べても大差はありません。さらに言うと、映像作品の方が簡単に理解できます。
ただし、簡単に理解できることには問題点もあります。それは、すでに完成された形で視聴者に提供されているということです。
小説が映画化されると、登場人物や風景、特に感情表現など、映画関係者や場合によっては作者の解釈によって視覚的に表現されています。言い換えれば、完成系を視聴者に届けているわけです。
一方、小説は文字が主体であるため、一定の空白が存在します。この空白は感情表現や風景、人物像などであり、すべて自分の想像で埋めることになります。この空白を埋める過程で読者は物語に深く没入する必要があるため、他者の人生をより具体的に追体験することができると言われているわけです。
また、個人的に思う小説の良さとして『物語を通じて新たな知識や視点を得ることができる』ということが挙げられます。
例えば、宮沢賢治さんの名作『銀河鉄道の夜』では物語の中で基本的な天文学と宇宙観について触れることができます。同様に、三秋縋さんの『恋する寄生虫』からは物語の中で寄生虫に関する知識に触れることができます。小説に描かれる地名や場所を通じて、その物語の舞台や背景を知ることができると考えると、より理解しやすいかもしれません。このような知識は物語に織り込まれているため、自然と心に残り、その分野への興味を引き出すきっかけとなります。
詩の良さ
詩は少ない文字数で表される情景描写と心理描写が魅力的です。
しかし、私自身、詩的感性に乏しいため、簡潔に詩の良さを表すと『わからない』という言葉が最適だと感じています。この『わからない』という感情は表現に奥深さがあることを示しています。詩は読む人の想像に委ねられる部分が多いため、解釈は人それぞれ異なります。さらに、一読では理解できないものも多いと感じます。詩の魅力はこのような『わからない』という感情が何度も読み返したくなる理由を与え、その都度異なる解釈や感情を見つけ出せることにあると考えています。
また、リズム感も特徴的です。
こちらは歌詞を例に挙げるとわかりやすいのではないでしょうか。歌詞では度々同じような言い回しで表現したり、韻を使った表現が用いられます。これは詩も同様で、詩の中には言い回しの繰り返しやリズム感が感じられるものも多いです。
俳句の良さ
俳句は詩と同様に少ない文字数で情景描写と心理描写を表現していることが魅力的ですが、季語や日常の一場面を切り取る句が多いため、より身近に感じられるものが多いと感じます。
また、季節感を表現するために自然を感じさせる言葉が用いられており、普段何気なく見過ごしてしまう日常の中に新たな発見を与えてくれます。
例えば、井上井月の『何処やらに 鶴の声聞く 霞かな』や正岡子規の『日のあたる 石にさはれば つめたさよ』がわかりやすいのではないでしょうか。このような俳句は、少ない言葉で自然の細やかな描写や美しさを表現し、情景を想像させます。
このように俳句は、日常に隠された美しさを見出すことができる魅力を持っています。
個人的には詩人や俳人の人生も一つの作品のように感じていますので、一度調べてみると、詩や俳句への理解がより深まるかもしれません。
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今年の年間ベストセラー
table:2024年年間ベストセラー(集計期間:2023.11.22~2024.11.19)(単行本フィクション1位から10位)
順位 書名 著者 価格 出版社
1 変な家2 ~11の間取り図~ 雨穴 1500円 飛鳥新社
2 成瀬は天下を取りにいく 宮島未奈 1550円 新潮社
3 変な家 雨穴 1273円 飛鳥新社
4 変な絵 雨穴 1400円 双葉社
5 成瀬は信じた道をいく 宮島未奈 1600円 新潮社
6 続 窓ぎわのトットちゃん 黒柳徹子 1500円 講談社
7 クスノキの女神 東野圭吾 1800円 実業之日本社
8 近畿地方のある場所について 背筋 1300円 KADOKAWA
9 すべての恋が終わるとしても 140字の恋の話 冬野夜空 1250円 スターツ出版
10 星を編む 凪良ゆう 1600円 講談社
2024年11月29日に日本出版販売株式会社から年間ベストセラーが発表されました。日本出版販売株式会社は出版物の取り次ぎをしており、年間ベストセラーは1年間の本の売り上げを集計したランキングです。今回は単行本フィクションに焦点を当てて、今年の読書傾向を考察していきます。
単行本フィクションの第1位は雨穴さんの『変な家2 ~11の間取り図~』でした。雨穴さんの『変な家』はYouTubeで2000万回再生されているので、多くの人が知っているでしょう。
https://www.youtube.com/watch?v=CBIL0eAwDs8
これを書籍化した作品が第3位の『変な家』で、そのシリーズが1位、3位、4位を占めています。
第2位は2024年本屋大賞受賞作『成瀬は天下を取りにいく』で、その続編『成瀬は信じた道をいく』は第5位となりました。
また、第6位の『続 窓ぎわのトットちゃん』は『窓ぎわのトットちゃん』の続編であり、第7位の『クスノキの女神』は『クスノキの番人』のシリーズ第2弾となっています。このように、話題の人気シリーズや人気著者の新作を読みたいという意識が垣間見えます。
第8位の『近畿地方のある場所について』はモキュメンタリー・ホラーの作品。第9位の『すべての恋が終わるとしても 140字の恋の話』は恋愛短編集。第10位は2023年本屋大賞受賞作『汝、星のごとく』となりました。
今年の年間ベストセラーの考察
このランキングから、モキュメンタリー・ホラーが人気であるということが読み取れます。モキュメンタリーとは
ドキュメンタリーの手法を用いて、事実であるかのように表現されたフィクション作品 (デジタル大辞泉)
です。このランキングでは第1位の『変な家2 ~11の間取り図~』、第3位の『変な家』、第4位の『変な絵』、第8位の『近畿地方のある場所について』がモキュメンタリー・ホラー作品です。つまり、上位10位のうち、4作品がモキュメンタリーホラーとなっています。前年2023年の年間ベストセラーでも第1位が『変な家』、第2位が『変な絵』であったため、このジャンルの人気が続いていることがわかります。
このように、フィクションとリアリティの融合や親近感のある怖さが、読者に没入感を与え、エンタメとして流行していることがわかります。最近では、BSテレ東が定期的にモキュメンタリー作品を制作しており、この番組を視聴すれば、モキュメンタリーの雰囲気がよくわかります。
https://www.youtube.com/watch?v=PqcGgKwakz8
また、『変な家』の著者である雨穴さんは、オモコロというWebメディアからデビューし、『近畿地方のある場所について』の著者である背筋さんは、カクヨムという小説投稿サイトからデビューしています。SNSや小説投稿サイトが普及した結果、このようなインターネット発の作家も増加しています。
一方、人気シリーズの続編や人気作家の作品も多くランキングに入っています。第2位の『成瀬は天下を取りにいく』と第10位の『汝、星のごとく』はどちらも本屋大賞受賞作であり、第5位の『成瀬は信じた道をいく』は『成瀬は天下を取りにいく』の続編です。ここから、タイトル受賞の影響力がわかります。
第6位の『続 窓ぎわのトットちゃん』は黒柳徹子さんの作品で名作『窓ぎわのトットちゃん』の続編です。また、第7位の『クスノキの女神』は東野圭吾さんの作品で『クスノキの番人』のシリーズ第2弾です。このように人気作家の続編も強い影響力を持っていることがわかります。
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最後に
これまで、文学作品の魅力と最近の読書傾向について述べてきましたが、私は「読書が美徳とされる風潮」に少し違和感を覚えています。それは、心から楽しめることに没頭する時間が大切ではないかと考えているからです。どんな活動であれ、自己の充実感や幸福感を追求することが、人生を豊かにするだけでなく、周囲との関わりにも良い影響を与えると信じています。
また、「創作は方法を変えた言葉である」という言葉の通り、絵画や音楽、漫画等の作品からも読書と同じくらい、人によってはそれ以上の知識や学びを得ることができるのではないでしょうか。
少々精神論のような話になってしまいましたが、これで以上です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。