第4章 やおいという解釈ゲーム
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from 宝塚・やおい、愛の読み替え
1 やおいの概要
やおい・BLの定義
やおい:男性同士の恋愛をテーマとした作品で,二次創作のもの
BL:同じく男性同士の恋愛をテーマとした作品で,オリジナルのもの
(実際には,近年ではどちらもBLという呼称が使われることが多い
やおいの愛好者
コミックマーケットにおいて女性が頒布している同人誌の中でやおいが占める割合は,主観的な印象では7〜8割程度
kana.iconまあ,ある程度仕方がないけど,もうちょっとデータがあるとよかったような.例えば,コミックマーケットのパンフレットの情報などで,大まかな数と割合を測れないだろうか
10代〜50代の女性中心である
2004年の調査によると,オタク層は全体の3.6%,その中でも創作欲求が強く情報発信を積極的に行う女性同人オタクは12%,人口推計から算出すると,彼女らの数は約43万ほど.
→やおい愛好者の規模は,数十万人程度ではないか?
kana.icon現代では,「オタク」自認ではない人も積極的にアニメやその周辺文化に接するということもある,かつ,「オタク」に対する過度なマイナスイメージ(犯罪者予備軍など)を持つ人も世代の更新とともに減っているのではないかという主観的な印象があるので,その人数は増えているのではないかという個人的な予想がある.
海外でのやおいはslashとも呼ばれ,1970年代ごろに日本のやおい文化とは別個に現れている
やおいの歴史
日本のやおい・BLの歴史
少女漫画家たちが,1970年代ごろから「少年愛」を描く
竹宮恵子「サンルームにて」以後
1976年ごろ「JUNE」創刊
栗本薫「真夜中の天使」など,小説でもBLが描かれるようになる
少年愛とやおいが同じ概念かどうかは検討の余地があるが,竹宮や栗本はヘッセの小説やテレビドラマの影響を受け,それらの物語を望ましい形で自分のてで表現したいという欲望が見受けられるので,やおいの作者たちと共通している
コミックマーケット発祥とともにやおいが生まれ,1977〜1978年ごろには女性による同人作品の主流に
1984年,キャプテン翼のやおいが爆発的人気
愛好者の増加により,やおい同人の作者が,一般少女漫画雑誌にBL的作品を描くようになった
やおいの先行研究
金田淳子などのジェンダー論の観点による研究
ジェンダーにまつわる葛藤やセクシュアリティに関する欲望からやおい・BL愛好をとらえる
ホモソーシャリティをホモセクシュアリティに読み替えたものとの指摘
登場人物に対する愛着を重視する見方
キャラクター所有(霜村)
kana.iconこのあたりは,戦闘美少女の精神分析で描かれた「オタク」たちと類似するか.
解釈の仕方を共有する共同体の成立
スタンリー・フィッシュ「解釈共同体」をやおいに適用(笠間千浪)
この本の視点
なぜ,やおいでは男性同士のホモソーシャル関係(同性同士の友愛関係くらいの意)がホモセクシュアル関係に変換されるのか?
愛好者のコミュニティと,二次創作としての「やおい」に着目
2 ファン活動としてのやおい
二次創作としてのやおいとは(本書における)
”fan fiction"全般
芸能人なども含めて,社会的になんらかのイメージが共有されている人物を登場人物に用いたもの
ファン,という言葉で象徴されるように,やおいはある作品やキャラクターに対する愛情表現であるべきだという規範がある(金田,名藤)
また,読み手がわも多くの場合は原作やキャラクターのファンである
「志を同じくする人が手に取ってくれて読むもの」という前提(三浦しをん・よしながふみ)
やおいコミュニティ
読者も作者も含まれる
作者も,別の作品の読者であることが多い
集合的な読まれ方
一つ一つの作品が別個に読まれるのではなく,特定コンテンツ,またその中の特定のカップリングを扱う同人作品として集合的に読まれている
コミックマーケットのスペースの位置などの情報からもわかる
また,特定作品,特定カップリングの「オンリー」即売会もある
3 相関図消費としてのやおい
二次創作の種類とやおいの位置づけ
「物語消費」(大塚英志)
舞台設定や世界観を消費する.
「データベース消費」(東浩紀)
キャラクターや構成要素を物語世界からは切り離して集積し,自由に組み合わせて楽しむ
ネオ物語消費(kana.iconが便宜上つけた)
「フェイクヒストリー構築型の物語消費」=「世界観消費」
「物語消費」のこと.世界観や設定ありきである
「キャラ萌え型の物語消費」=「データベース消費」
物語としてのキャラクターを消費
→東,大塚はともにやおいに対しては曖昧な結論である
世界観消費 VSやおい
原作の舞台設定を必ずしも使うわけではないので,等しくない
データベース消費 VSやおい
「キャラ萌え」の一種ではあるだろう
ただし,本当に原作の物語から切り離されているのか?
コミックマーケットのスペースに関して調査すると,女性向けサークルではポスターは大人の身長程度かそれ以下のもの(A)が多く,男性向けサークルではより高い位置にあるポスター(B)が多い( Bの数について調べると,3倍近い差がある)
→低い位置にポスターを配置するということは,内輪向けであるのではないか.高い位置にポスターがある場合,その作品が集まるスペースの外の,会場全体の人にアピールできるので,そちらはより広い層にアピールしたいのではないか.この前提をとると,やおいの作者は,あくまで原作を知っている人に読んでもらいたいという層が多いのではないか.
→原作との結びつきは,男性向けよりも強いと言える
では,「原作ありきの」キャラクターへの愛とは何か?
物語を知らなければ理解しにくい側面として,キャラクターの人間関係がある
やおいで恋愛関係が設定されるのは,原作で多少なりとも関係があるキャラクターである
他の作品のキャラクターとのカップリング,創作キャラクターとのカップリングは少ない
原作の物語世界からは分離しているが,原作で描かれている人間関係から切り離しているわけではないのがやおいの特徴である
「相関図消費」としてのやおい
「キャラ萌え(=愛着)」がベースにはあるのだが,その関心はキャラクターの外見的要素や,そのキャラクター単体に限られないというところが,「データベース消費との違いである」
男性向けでは小説は多くないが,女性向けでは一定の割合を占める(コミックマーケット準備会2011調査によると,小説中心サークルは女性代表の32%弱,男性代表サークルの12%弱)
イラスト集の発行の頻度が,やおいではあまり多くない(イラスト中心は,同調査によると男性代表の24%強,女性代表サークルの7%強)
→図象よりも,物語性に重きが置かれているのでは?
東浩紀がいうような90年代〜世界観消費からデータベース消費へ,というモードとは別に,一貫した相関図消費というモードがオタク文化に存在する
4 解釈ゲームとしてのやおい
やおい化されやすい物語の特徴?
「男性向け・一般向け」の物語である(渡辺由美子)
掲示もの,ロボットアニメ,少年漫画など,基本的に恋愛要素がない作品(金田)
「強いきずな,対立の構図,隔絶した舞台」(西村)
まとめると,男性たちが公的領域で仲間と力を合わせ,ライバルと切磋琢磨し,それらの関係が恋愛関係よりも重視されている物語がやおい化されやすいと言える
少年漫画のやおい化が多いことにも当てはまる
また,もともと男性同士が恋愛をしている作品に関しては,やおいは人気を集めづらい
カップリングについて
「受」「攻」概念
性描写のないやおいでもこれらは存在する
また,絶対的な共通の基準が確立しているとも言えないのだが,区別自体は重視されている
そのキャラクターがどちらがわにいるかによって,同じキャラクターのカップリングであっても愛好者が違ったり,別物とみなされることはある
「異なるジェンダー的な役割」として存在する
恋愛化
やおいは原作から「書き手側が残してくれた手がかりをもとに整合性を見つけ出していく」(三浦・よしなが)
例えば,ある人物が,特定の人物のみを下の名前で呼ぶ,など
そしてその手がかりは,恋愛のコードを参照しながら見出される
やおいにおける相関図消費は,ヘテロジェンダーな対関係の設定と,親密性のコードの変換である
ジョナサン・カラー「解釈ゲーム」
アカデミズムで行われる文学作品の解釈を,「この作品は本当は何について述べているのか」についての答えを競い合うゲームとして捉える
そのための型が,「フェミニズム」であり「精神分析」であり「階級闘争」である
やおいコミュニティで行われているのも「解釈ゲーム」ではないか
特定の場面やセリフの組み合わせが,いかにあるか説を支持するか?
読みの妥当性を説得するように努めねばならない(どちらもカラーによる)
渡辺由美子によると,「実際に漫画や小説に仕立てなくても,自分の解釈はこうだという意見交換も,創作の一種」である
→これらをもとに考えると,やおい的な「相関図消費」の中心行為は”解釈”である
データベース消費では組み合わせ,世界観消費では”精査”が中心である
作者の解釈を聞くことが一つの要素でもあり,それがやおいの面白みの一つである
これもまた,データベース消費とは違った点である
データベース消費の場合,「他者の欲望を欲望する,というような厄介な人間関係に煩わされず」(東浩紀)といった欲求への退化の側面があるが,やおいの愛好家の場合は,自分の好みがそのまま満たされていることを求めているだけではなく,解釈を知ることが快楽になりうる
→コミュニティとの結びつき
ただしここでの解釈は,「原作そのものについて」ではなく,「好きなキャラクターどうしの関係性」である
5 恋愛パラレルとしてのやおい
やおい化の手法
原作をもとに,原作で描かれていない部分を想像し,創造する「原作ベース」
原作の隙間を埋めるようなもの
例:冒頭から親しい関係の男性キャラクター同士の出会い,あるいは,原作で登場したセリフの裏の意図や行間のエピソード
原作とは異なる設定の物語を描く「パラレル」
原作のキャラクターを有名な物語に当てはめるもの
歌舞伎での「綯い交ぜ」にあたる手法?後者も,ある程度人間関係やストーリーのパターンをイメージできるという意味で,同じ発想と言える
別の舞台設定に変える
原作の人間関係を別の人間関係に変換
例:「進撃の巨人」であれば,登場する部隊を家族に設定変更する
この場合,恋愛関係が中心であるとも限らない
なぜ,相関図消費において「綯い交ぜ」の手法が扱われるのか?
二重,三重のパクリによって新しい視点,新しい人間像を発見する可能性がある(渡辺保)
連想作用に訴え,直感的にそのものへの本質に切り込むこともできる性質 を持つ(郡司正勝)
→世界の新たな理解
やおい全体も,原作のホモソーシャルを恋愛関係に見立てるパラレル型の二次創作とみなせるのではないか
引用したキャラクターと人間関係,引用した(他の)物語
やおい独自のコード?
人々は社会に存在する恋愛のコードに基づいて行動するが,そのあり方が新たに恋愛コードを発達させ,再生産する(ルーマン→東園子)
やおいも,それが積み重ねられることで独自の解釈/表現のためのコードを生み出すのではないか
「萌え要素」
例:制服,めがね,など
ただし,やおいの場合は関係性にまつわるものが多い
例:ヘタレ攻め,主従,年下攻め(年上の受けが前提されている)など
やおい愛好家の間での,ある萌え要素を持つカップルの関係性についての一定のイメージ
全くの想像の場合もあれば,それまでに読んだ物語の関係性に基づくこともある
探偵小説におけるれい:
「探偵小説形式」は「抽象化された項と項の関係性の総体」であり,「名前を与えられたホームズやで湯パンというキャラクターは,探偵役としてコード化されることでジャンルの共有財産になり得た」(笠井潔)
やおいにおいても,萌え要素に抽象化されて関係性がコード化されることで,共有財産になっている?
解釈の補助線
データベース消費における,キャラクターを構成する材料としての萌え要素というよりは,人間関係解釈のためのサブコードである
6 萌えトークとしてのやおい
「萌えトーク」としての作者の語り
同人誌,同人サイトには,コメントが添えられていたり「あとがき」「まえがき」が充実している
パロディ対象についての注釈
原作やキャラへの思い入れ,創作の動機や裏話といった萌え披露
金田の少女小説後書きの分析
「作者側から差し出された,あたかも友達のような親密な関係性に対して,読者も参加していくという読み方」ー「想像の親密性」
同人誌即売会も,社工場としての機能を持つ
サークル同士の挨拶というマナー,雑談などもある
サークル同士,作者と読み手で萌えトークによって,仲間意識や原作への愛情を共有する
同人誌即売会における女性たちは,おしゃれをしていく人たちが少なくない→他の女性たちの存在を意識している(=車高を意識している)からではないか?
→共同性の創出
直接交流だけではなく,やおいの発表,読書による間接的な萌えトークの交換
7 やおいにおける相関図消費
注釈から
コミックマーケット78の参加者のうち,女性の割合に関して一般参加は35.6パーセント,サークル代表者は65.2パーセントであり,女性オタクの方が自ら創作を行う人の割合が高いのではないかと推測される
やおい創作は,「萌え語り」の延長線上にあるため気軽に創作を行いやすい?
やおいには,モノローグの使い方やコマ割りといった表現技法において少女漫画の影響が強い
やおいは,少年漫画を少女漫画のスタイルで読み解き表現したもの?(大塚,金田,守)
やおいにとって,リアルゲイの3章が必要不可欠であると断定することはできない.必ずしも,依存関係にあるとは言い切れない