『修理する権利: 使いつづける自由へ』
https://m.media-amazon.com/images/I/71MoJIEjl1L._SY522_.jpg https://www.amazon.co.jp/%E4%BF%AE%E7%90%86%E3%81%99%E3%82%8B%E6%A8%A9%E5%88%A9-%E4%BD%BF%E3%81%84%E3%81%A4%E3%81%A5%E3%81%91%E3%82%8B%E8%87%AA%E7%94%B1%E3%81%B8-%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%B6%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC/dp/479177695X?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=334B3GGGSJXD5&dib=eyJ2IjoiMSJ9.svPZk2Y1bpORCFI2TUmP4Sju2rpvl8_UcXmEjw9ykD2L4ilvZ3Ogj2qsjwdgih6xfaAlyNjI6axXVJDVGHi3jP323W8pvtpjkvoePZCxpQhYEuFVb6Qriu2R6A8uFWJ1.FLMDYQrP4l1dQiHNG53r-FkqDNu0HyhwjUYExR_wPKo&dib_tag=se&keywords=%E4%BF%AE%E7%90%86%E3%81%99%E3%82%8B%E6%A8%A9%E5%88%A9&qid=1755410181&sprefix=%E4%BF%AE%E7%90%86%E3%81%99%E3%82%8B%E6%A8%A9%E5%88%A9%2Caps%2C222&sr=8-1
単行本 – 2025/4/28
第1章 はじめに
iPhoneの売上減少はバッテリー交換プログラムの人気が原因とティム・クックが述べる。 環境負荷
スマートフォンは世界で15億台製造、修理に回されなかったスマホは5000万トンをこす電子ゴミの一部を占めた。
アメリカの埋立地の有毒廃棄物の70%は電子機器
製造から世界中への出荷時にも環境汚染がある。取引の当事者が考慮する必要がないコスト「負の外部性」。 コロナ禍
人工呼吸器不足。メーカーが修理マニュアルを共有せずに危機が長期化した例もある。
地元のボランティアが3Dプリンターで100個のバルブを1ドルで販売。
中央集権的な修理システムの脆弱性が露呈。
リモート授業への移行によるラップトップ、タブレットの需要急増。
初等教育の遅れや格差が生まれた。修理ショップや非営利団体が再生デバイスで頑張ろうとしたが、情報、部品、ソフトウェアにアクセスできず、思い通りにいかないことも多かった。
p16 通勤者向けのこの小さなワイヤレスデバイスは、非常に紛失しやすい。価格、置き忘れる危険性、いかにもアップルらしいデザイン美学。この3つが合わさって、AirPodsは使い捨て消費の異彩を放つシンボルとなった。
才能に恵まれたアップルのデザイナーとエンジニアならバッテリー交換可能なイヤホンも設計可能だったはず。
AirPodsのバッテリーサービス
154ドルの製品修理に149ドルかかる。アップルも修理できないため単に新しいものに交換している。
家庭用ソーシャルロボットのジーボ
ジーボ社が経営破綻した際に、機能の殆どが格納されているサーバーも止まり、デジタル認知症になってしまった。
IoTは根本的なレベルにおいて修理との互換性がない。 急なスマートホームのリモート機能停止。
p21 今日、製品とサービスとの境界線はより曖昧にぼやけている。テレビ、自動車、家電には、機能のコアとなる、深く絡み合ったソフトウェアとデータサービスがバンドルされている。その結果、修理に対する消費者の期待とモノのインターネットの現実が、ますます矛盾する可能性が高い。
修理の制限
企業
修理費の不当な値付け、下取りプログラム
法律
デバイスメーカーは特許や商標を利用して交換部品の入手を制限。回路図やその修理に関する情報を営業秘密と主張する。著作権を利用して、デバイスの診断や修理に必要なツールを囲い込む。
私たちが毎日使用するデバイスは、重複する知的財産権だらけ。
ディア社のトラクターのソフトウェアもこれで保護され、正規販売店以外では何もできない状況だった。
2015年に農家がアメリカ著作権局を説得し、保護対象から3年間の一時的な除外を勝ち取った。とはいえ、コード解除には現実的なハードルが高く、法的リスクはこの他にもあり限定的な影響しか得られていない。実際、ウクライナのハッカーからダウンロードしたソフトの違法コピーに多くの農家が頼っている。 デジタル化前の機種が高騰したりしている。
実利的なアナログ信仰だ。Kai.icon
第2章 なぜ修理は重要なのか
修理は普遍的で日常的な行為であるが、問題が起こるまで修理について考えることがほとんどないため、その役割を正しく評価できていない。
p30 本書において修理とは、人間がつくり出したモノの形状や機能を元に戻すために、修繕したり再調整したりする行為を指す。
修理は完全に元の状態に戻すことはできないが、損傷をもとに戻し、寿命を伸ばす。
レストアは完全に元の状態に戻すことを志向する。
修理・レストアが過去を無視するか否定する形で行われると、意味や背景を奪い取ってしまうこともある。
メンテナンスは予防的に故障を回避するが、作業としては修理と同じことが多い。
p32メンテナンスは現在の状況を長く維持する行為であり、修理は以前の状態に戻す行為である。
イノベーションのナラティブは不完全で偏った未来しか語らない。
原材料の調達から製造、廃棄までのサイクルには多くのコストが伴うという事実を無視している。
新しさに伴うコストに目を向ければ、修理はむしろ前向きな考え方である。
ラップトップ一つ取ってみても、技術進歩、設計、工場労働者の労力、ロジスティクス、広告など大量の人的投資の賜物であるということを考えると、古くなったというだけで廃棄するのはその投資を放棄することと同じ。
p33 そう考えると、修理は時間や変化と複雑な関係にある。修理は、時計の針を逆回転させ、避けられない時間の経過を否定する愚直な努力ではない。また、無限の豊かさに守られ、どんな影響もはねのける、想像世界の未来に向かって突っ走る行為でもない。むしろ、過去と未来を調和させる試みである。人間の創意が差し出す約束と、世界の資源を取り巻く厳然たる現実との、実際的な妥協に他ならない。
現代のイノベーションがいかに古い技術とのミックス環境の中でその本領を発揮しているのか、という観点も語られるべきなんじゃないか。それこそMIDIとかCVとかkbyshwtn.icon
まあイノベーションを阻害するものとして過去の遺物が邪魔扱いされることも多いが。
現代の使われてるMIDIとかCVは別にイノベーションと言えないような気すらしますね。Kai.icon
音楽や芸術にけるイノベーション的なものは工業的(?)にイノベーションではなくて、この本では工業的イノベーションにフォーカスしている感があります。
修理の経済的効用
製品寿命を伸ばす
修理は直接的な意味で機能寿命を延ばすが、デザインなど他の考慮条件も買い替えに寄与する。
製品寿命が短くなったという消費者感覚と、それを裏付ける実証調査もある。
『コンシューマー・レポート』誌の調査によると、新品の洗濯機の30%が5年以内に故障し、冷蔵庫の40%が5年以内に不具合が生じると推定されている。 ブラウン管テレビは平均寿命は15年だったが、フラットスクリーンテレビ平均寿命は6年。
自動車は例外的に寿命が伸びている。
技術の進歩とグローバル競争の激化と規制基準の強化が、品質水準を高める役割を果たしたと考えられる。
加えて企業は頻繁に商品を廃棄して買い替えることを推奨する。
二次流通市場への供給
二次流通が活発になると、新品価格を押し下げる圧力になる。
修理は中古市場で中心的な役割を果たす。修理できるかできないかで商品の価値が変わる。
メルカリとかヤフオクの市場分析したところ「リセールバリューの高い商品」ほどプライマリ市場での価格決定の柔軟性が高まる、みたいな論文を読んだことがある。kbyshwtn.icon
実際Macは値崩れしにくいから多少高いけど問題ないみたいな言説見たことありますね。修理の文脈ではないけど。Kai.icon
実は二次流通市場は経済の大きな部分を占めている。
所得が多くなると買い替えを好むようになる。そのため修理によって二次流通市場が発展すると貧しい人たちがその影響を受けることができる。
アップルの修理プログラムが赤字の理由
「ハリウッド会計」ロイヤリティや利益分配を回避するために高収益の映画を失敗したように見せる帳簿処理の俗称。 交換部品や修理サービスの普及を望むのであれば、利益確保のインセンティブを調整する必要がある。
修理の潜在的コスト
1,二次流通市場に移動した消費者の影響による製品価格の値上げ
現在デバイスメーカーが隠している、寿命や壊れやすさなどの潜在的コストを元の商品に計上することになり、むしろ透明性が向上することになる。
修理が企業の最終損益に与える影響を懸念すべき理由
1、研究開発に対する投資額の減少。
イノベーションが遅れるのでは?とも思うが、マイナーアップデートが意味をなさなくなることで、むしろ革新的な差異化を求められ、イノベーションが増えるという主張もある。
2、雇用の喪失
労働者は現在、旧製品に変わって大量に投入される新製品に依存して生活している。
修理は自動化が難しく、独自のキャリア機会を提供する仕事である。使い捨て製品が受け入れられてきた結果、修理工が犠牲になっている。
経済的な観点から見た際に修理の妥当性を否定することは難しい。
修理が環境に及ぼす効果
電子ゴミはヒ素、鉛、水銀などの重金属や臭素系難燃剤などの有害物質を高濃度で含んでおり、土壌に染み込み、地下水を汚染し食料供給に影響を及ぼす可能性がある。
電子ゴミの被害は均等に分配されていない。貧困層は埋立地の近くに住み、富裕層は安全な場所で暮らす。
128gのiPhone一台を製造するために、38kgの鉱物を採掘しなければならない。
採掘プロセスの問題
露天掘り鉱山での大量の廃石。
大気汚染、金鉱山の水銀汚染、鉱山労働者の結核、肺がんの呼吸器疾患患者が多いこと。
廃石から有価金属を分離する作業。大量の水を消費し、水、岩石、金属粒子が混ざりあった泥状の廃棄物が環境破壊を引き起こす。
パプアニューギニアのブーゲンビル島の住民がオーストラリアの鉱山会社リオ・ティントを相手取って訴訟を起こした。
ほぼ一様に放射性物質と混在した状態で採掘される。
硫酸、大量の水、電気を使って鉱石を分解すると、有害+放射性の泥が残る。
レアアースの大半が採掘されているのは、環境基準が低いか存在しない国や地域である。
半導体製造プロセスのカーボンフットプリント、エネルギー集中 外洋船の温室効果ガスは世界6番目の排出国に相当する。
消費サイクル鈍化へ
新しいデバイスの価格に完全かつ正確にコストを反映させるアプローチ
p57 言い換えれば、デバイスの購入代金は、ボリビア、コンゴ民主共和国、モンゴル、パプアニューギニアなどの周縁化されたコミュニティが支払う"補助金"によって賄われているのだ。
リサイクルは重要であるが割合が少ない上、消費を抑えることには寄与しない。
裏庭で行われるような非公式なリサイクルも発生しており健康被害などが問題となっている。
修理の社会的メリット
p66 スマートフォンから医療機器までのデバイスが私たちの延長ならば、修理する権利は、私たち個人の自由と主体性にとって不可欠である。
医療機器の修理は特に問題が深刻。
修理は個人がコントロール感を持つだけでなく周囲の世界をよりよく理解するために役立つ。
壊れるまで人はどうやって動いているかを意識しない。
テクノロジーへの理解と問題解決能力の両方を養える。
修理工場で考案されたイノベーションの数々
自動車が誕生してから数十年間、修理は自ら取り組む行為だった。
ユーザーによるイノベーションを促す豊かな土壌となった。
著者の期待感がすごい。
修理の最もラディカルな形態といえそう。Kai.icon
修理コミュニティの構築
自力での修理は知識、技術、体験談の普及を促す。
しかしメーカーはユーザーの自力修理を嫌う。中央集権的なやり方で知識を独占する。 つねにすべてを修理するのがいいということではない。
多角的に考えてメリットがある方を選ぶ、というのが一番良い。
第3章 修理の歴史
20世紀以降近代的な製造業が組立に掛かる時間と人件費を削減したことで、製品の耐久性が企業の経済的利益に直結しないことを企業が理解した。
消費を誘発することで修理を妨げる手段を取り始めた。1920年代には「計画的陳腐化」と呼ばれる戦略を模索していた。 1950年代にはこのテクニックが消費者経済の土台になった。 修理の起源
陶器も草で結んだり瀝青で接着したりしていた事がわかっている。
金属の留め具や別の石器による交換部品も発明されている。
当時の船には定期的な修理の跡があった。
木造建築も修復された。
剣や鞘の修理も一般的に。
修理の跡は粗雑で、熟練した職人技は見られない。
修理は組織的で野心的、革新的な行為。
水道橋の維持のために課税し大量の労働者を雇って整備していた。
修理の複雑化、それによる専門化が進む。
この後数百年はこの状況が特に変化なし。
p78 少なくとも数千年前から、熟練の専門家とDIYのアマチュアとのあいだで、修理責任が共有されてきたことだ。そしてまた証拠が示すのは、純然たる実用的関心に加えて、修理が美的目的とコミュニケーション目的にもかなうことである。 交換可能な部品の欠如が広く問題として認識されるようになった。
軍事的発展
フランス軍はカノン砲の口径を統一し、車輪を交換可能に。許容誤差が大きく精密さは特に必要なかった。 設計と製造を規格化すれば、兵器の信頼性と殺傷力は高まるうえ、低コスト化が進む。
ホイットニーが取り付けた2年間で一万丁のマスケット銃の納入契約で出荷した銃には互換性なかった。
時計
時計職人で発明家のイーライ・テリーは交換可能な部品を使った木製時計を発明し、時計の製造に革命を起こす。 数十年後にウォルサム・ウォッチ・カンパニーの共同創業者アーロン・デニソンが互換性のある懐中時計を設計。 その他の業界にも波及しマイクロメーターやアメリカ・ワイヤゲージ(AWG)という電線規格を定めた。 19世紀後半には多くのメーカーが機械化生産と交換可能な部品を使ったアメリカ式システムを採用した。
しかし当時の工具では硬い金属部品を正確に切断できず、ヤスリを使って手作業で合わせる必要があった。
すべてのフォード車は、基本的な修理方法を解説した簡単な修理マニュアルとツールキット付きで販売されていた。
簡単に交換できる部品が、車の価値を高めることを理解していた。
T型フォードの製造中止後も、修理に対応できるように10年半にわたって交換用のエンジンを生産した。
規格化が単に交換可能であることの優位性として語られている(修理の文脈から語られているので当然)が、可能性としての規格化の例もいっぱいありそうだなと思った。ユーロラックとか。Kai.icon フォードがやったことは新しい市場を開発したということであり、すでにある市場に参入したのではない。
市場の成熟とともにメーカーは消費者の購買意欲を掻き立てるような方法で製品を設計し、全体的な方針を立て、消費者の選好を形成するという、強い経済的インセンティブを持つようになる。
バーナード・ロンドン:世界恐慌の時代、アメリカ経済の問題は消費者が「古い車、古いタイヤ、古いラジオ⋯を予想よりも長く使い、陳腐化の法則に従わないこと」である。 消費の拡大によって経済成長を促す。
人々の財布の紐が硬い状態で新製品を買わせるために、ロンドンは官僚機構がすべての商品に「寿命を割り当てる」という案を考える。
絶え間なく買い替えられる世界で重要性を持ったのが広告 この戦略を「進歩的陳腐化」と称する。国家が矯正するのではなく、文化、美的判断などを影響力として消費を促す。
ゼネラル・モーターズは年式ごとにスタイリングを変え、一目でわかるようにした。
タイプライター→ワープロ→ラップトップ
必ずしも技術の進歩やイノベーションの副産物とは限らず、バッテリー切れや、ソフトのサポート終了、不具合等。
陳腐化したかどうかの判断が一部には、修理可能性やコスト、有効性に左右される場合もある。
最初から寿命の短い製品を製造する戦略。
古くは1870年代に男性用シャツの使い捨て襟が発売。定期的に選択するより安くついた。
1920年代、キンバリー・クラーク社が第一次世界大戦中に包帯として供給していた繊維を用いてティッシュや生理用品などの使い捨て製品を製造。
計画的陳腐化の中断と復活
世界恐慌と、その影響がある状態での第二次世界大戦によって、修理が復権。 戦後の好景気によって反動的に陳腐化が復活。
p92 ディオールはみずからの美学を、フランスが脱出したばかりの「配給帳と衣料品のクーポンに取り憑かれた、貧困に喘ぐ倹約時代」に対する反動と説明した。
ディオールがスカートを長くしたため、手持ちの服では再現できなかった。
家電メーカーなど他の業界の企業も陳腐化の美学を評価。
特定の期間がすぎると製品が故障するように設計する慣習。
具体的にメーカーが修理を妨害していた方法を暴露。分解がとてつもなくめんどくさいアイロンや、企業によるわいせつな内容が含まれているとしか思えないほどのサービスマニュアルの検閲。
トランジスタは小型で安価だったが、修理がより困難に。
消費財が複雑になるにつれ、消費者は自分で完全には制御できないテクノロジーに依存している。
家主と修理法
1900年から60年代にかけての技術的進歩の間に、アメリカは農業国家から都市国家に変貌を遂げた。 労働者の生活様式の変化
田舎暮らしは地理的に孤立していたため、予期せぬ自体に対処するために独自の問題解決能力を大いに発揮する必要があった。
都市生活によって人々が修理から遠ざかると、立法者や裁判所は特定の市場において修理を奨励する必要性を認識。
時代の変化と賃貸住宅市場に特有の経済的インセンティブとが組み合わさって、重要で不可欠な修理が軽視されてしまう懸念があった。
住宅ストックの劣化の防止、賃借人の尊厳を守るため。
貸し出した不動産の欠陥は土地所有者に修理の義務がなかった。破壊か摩耗の責任を問われ土地所有者に損害賠償を求められる事もあった。
農民の関心はおもにその土地に建っている農地の価値であった上、借家人は概してほとんどの修理を自力で行うことができたという背景がある。
1000年ほどこの仕組みが続き、アメリカの法律としても50年前まで存続。
1970年代頃にコロンビア特別区巡回区控訴裁判所が下した「ジャビンズvsファースト・ナショナル・リアルティ・コーポレーション」の判決をきっかけに法律が大きく変わることに。
多数の建築基準法違反や暖房器具の故障や水漏れなどに家主が対処しないということを理由に住人が家賃の支払いを拒否。
p100 「今日の都市生活者が通常、持っているスキルは単一かつ専門的で、メンテナンス行為とは何の関係もないため、”よろず修繕屋”だった農夫のように何もかも修理することはできない」
居住可能性の黙示的保証を住宅の賃貸借契約に適用。
2つの問題
1,法は修理を奨励すべきか。
不動産的価値の低い貧困地域に不動産がある場合、修理費用を回収できる可能性が低いためメンテナンスを怠る。法で最低限の維持を要求しないと賃借人に危険があることがある。
2,奨励するのであれば誰が修理の責任を負うべきか。
居住可能性の黙示的保証によって一部の修理に関わる金銭的な負担は家主が負う。
とはいえ賃借人も無力ではなく、日常的な修理の大半は賃借人でも対応可能。この法律の目的は、賃借人による修理を妨げることではなく、居住可能性を脅かすような修理であっても自由に修理を行うことができ、修理費は家賃から差し引かれる。
教訓:市場インセンティブや現実的なハードルが修理の妨げになる場合、法制度が効果的に対応できること。
もっと多くのデバイスメーカーに対しても修理を期待すべき。
p103 修理してほしいというあなたの要求を無視する以上に、家主はもっとひどいことができる。――街中のレンチを買い占めて、懇願しても売ってくれない。あなたが依頼した配管工が、建物の敷地内に入ることを許可しない。市場価格の倍の修理費をふっかける、家主が懇意にしている配管工に依頼することを強制する。配管に触らせないようにドアに鍵をかけて、鍵の受け渡しを拒む。デバイスについて言うならば、地球上で最も影響力を持つ収益性の高い企業が、このような対応をとることは極めて多い。
第4章 修理を阻む戦略
設計と修理可能性
普通に修理を計算に入れた設計はムズい。
例:サンフランシスコを走るベイエリア高速鉄道の歴史。
公共交通機関のあり方を見直すチャンスとみなし、線路の独占と快適なコンパートメントの列車の構築のためにレールの標準軌の幅を世界中の規格と外して作った。
規格外の軌道を使ったことで、老朽化するにつれて修理の悪夢へと変わった。
修理可能性という設計の思想の恩恵が現れるのは何年も、何十年も立ってからである。
利益のための修理の制限
修理を完全に妨げるのではなく修理サービスを独占提供することで利益を伸ばすという2つのアプローチをやる。
修理の制限の根底にある動機を読み取るのは難しい。
Airpodsの修理がほぼ不可能なのは、Appleの修理戦争のための仕掛けなのか、デザイン上の問題なのかがわからない。
会社がデカすぎて内部でも論争が起こっているらしい。
行動を規制する
法
最も明白で身近な規制手段であり、行動を抑制する強いインセンティブを生み出す。
法的解決にはコストがかかる。急な行動変容に対しては逆に法的規制が反発を生み、中途半端にしか遵守されない恐れがある。
アーキテクチャ
私たちが見出す世界と設計するものの両方の形が行動を形成する。
市場
行動の変容に経済的インセンティブをかけると行動は予測可能になる。
規範
共同体の価値観を人は内面化して行動の規範にする。
共同体の価値観は有機的な変化によって強まったり弱まったりする。
修理を阻む障壁を設計する
修理の第一ステップは中身を開けてみること。内部へのアクセシビリティがまずは大事。
接着剤で固定しているAirpodsやSurface Proなどは内部を開くことがまず難しい。
ネジは素晴らしいが、完璧でもない。
特殊ネジで修理コストを上げることができる。
利点もある
ネジとドライバーの接触点が増えて摩耗が低減すると
セキュリティネジは不要な取り外しや分解を防ぐ目的で正当化される。
設計上の欠陥がある製品
特殊ネジと、電子部品のはんだ付け、接着、リベットの多用。
バタフライキーボード交換プログラムの際、キーボード交換のためにトラックパッドと上部ケースも交換が必要に。
ベアリングの故障が多い。
ベアリングの交換自体は安いが、ドラムの取り外しに大きな労力がかかる。
スパイダーアームの故障。
背面のスパイダーアームは洗剤に触れると腐食して数年で崩壊し始める。
タイミングチェーンがエンジン後部にあり、修理が死ぬほどめんどくさい。
p124 「S4を買うということは、アメリカで最も幽霊が出る屋敷だと知らずに、絶叫ものの価格でこの車を手に入れるようなものだ」
ソフトウェア設計
ソフトをデジタル著作権管理テクノロジーの追加レイヤーで保護して、アクセスを世紀プロバイダに限定している。
デバイスの所有者と独立系の修理プロバイダに法的なリスクをもたらす。
サードパーティに修理が行われたiPhoneが文鎮化した事件。
集団訴訟の結果ソフトウェアアップデートで下に戻してオーストラリアでは罰金も支払った。
2017年、Redditで古いバッテリーを積んだiPhoneが意図的にプロセッサの低速化をされていたことが判明。
唐突な電源オフを防ぐためと説明したが、結局ユーザーは買い替えAppleが儲かっていた。
セキュリティ向上を歌ったT2チップの導入で、個人的に修理した場合、アップルと正規プロバイダが解除しない限り動作不能になる可能性がある。
アクティベーションロックの導入による廃棄スマートフォンの増加。
スマホ盗難に対して立法者や警察が「キルスイッチ」の組み込みを促し、盗難は減少した。
最近のアップルは修理が公認パートナーでない場合、交換部品が純正であっても警告を表示し、独立系修理リョップの信用を下げる。
市場の制約
価格と入手可能性
修理の価格を高く設定し、利益を囲い込みたい企業たちは、交換部品も不用意に高額に設定する。もしくは部品提供の拒否。
多くの古いデバイス修理の拒否もする。
Appleが修理サポートについての信頼性の高いタイムラインを公表しているのは評価できる。
とはいえ発売から7年でサポートを辞める事になっている。Mac ProはBMW4シリーズとほぼ同じ値段なのに7年は短くね?
現行品でも修理をせずに単に交換することが多い。
p137 デバイスメーカーにとって、これは収益性の問題だ。利益を最大化するために企業はできることは何でもする、と想定すべきだろう。良くも悪くも、現代の企業はそのようにできている。そして、新製品の製造を重視するサプライチェーンにとっては、たとえ最終的には埋立地行きになるとしても、古い製品のメンテナンスに費やす資源を最小限に抑えたほうが、効率がいい。同じように、ウーバーはドライバーを従業員として認めない方が、フェイスブックは偽情報にプラットフォームを開放したほうが、化石燃料企業は好き勝手に環境を汚染できた方が、利益が上がる。企業は、コストを外部化して利益を得ている。だからといって、それらを野放しにすべきだというわけではない。
正規の修理
ほとんどの企業は、サードパーティーの修理プロバイダを完全に排除することが自社の利益にならないことを理解している。
法的リスクが生じる恐れがあり、現実的に消費者の修理需要を満たすためにはサードパーティの協力を得る必要がある。
Appleの正規サービスプロバイダプログラム
行える修理の種類が限定される。
顧客に提供できるサービスレベルが低下する上、収入を著しく減少させるため、ほとんどの修理プロバイダーがAASPになることを拒否してきた
Appleは批判を受け、独立修理プロバイダ(IRP)プログラムを発表。
IRPとして承認されると、純正の画面とバッテリーが購入できるが、参加店は少ない。
IRP契約は修理業者に理不尽な要求を押し付け、修理、プロバイダのビジネスを損い、顧客のプライバシーを危険にさらすため。
知的財産権の行使の問題
独立系修理ショップとAppleの不均等な力関係踏まえると、知的財産の侵害かどうかを決めるのはAppleの独断となる。
表向きは修理の有効性を高めるように見えるが、修理プログラムが実際にはより多くの消費者に新規購入を促す可能性がある。
再販市場の制限
AppleがAmazonと組むことで、すでにAmazonで売られていたサードパーティ修理品を駆逐。 広告の制限
2018年Googleが「消費者向けのテクノロジー製品及びオンラインサービスのサードパーティプロバイダによるテクニカルサポート」の広告を禁止する新たな方針を発表 当初はワンクリック詐欺の温床となっていたテクニカルサポート詐欺に対しての対応。
この禁止措置は詐欺と合法を区別せず、小さな修理ショップの広告は禁じられた。
その後Googleもハードウェアビジネスに参入し、独自の修理サービスや認定修理プロバイダを提供し始めた。
純粋に消費者寄りに見えるが、購入金額を下げることで、デバイスの生産と消費を促進する。
ソノスのリサイクルモード
二次流通市場のコントロールと修理が持つコスト上の優位性を低下。
消費者規範
チャイルドシート
中古のチャイルドシートは推奨しないというメーカーの印象操作が規範化。
第5章 修理と知的財産
デバイスメーカーがどのように知的財産権を利用して、修理を制限するのか
企業側の主張が一般に、知的財産の妥当な理解となぜ矛盾するのか
p159 著作権法は、著作者に創作物に対する独占権を与え、書籍、音楽、映画、芸術、ソフトウェアの市場価値を獲得することを認める。
理論的には、複製に対する法的権利は、作品を見出すためにより多くの時間と労力をつぎ込むように、創作者の意欲を促進する
とは言え、実際は多くの創造性は著作権のインセンティブがなくても生まれる。
アメリカの著作権法を元にした重要な点の整理
事事はリアリティにかけるため、どれほど意外な内容であろうと著作権では保護されない。
保護されるのは、作者による独自の表現だけであり、アイディアは保護されない。
作品のテーマや、その作品に含まれる機能要素も除外される。
機能的な物体について、著作権が保護するのは、グラフィックや彫刻の構成部分など物品全体から分離可能で創造的な要素に限られる。
その利用による社会的な利益が、著作者に与える損害を上回るときに、著作物を著作権者の許諾なく、使用することを認められる規定
フェア・ユースの立証は、訴訟によってのみ解決可能な事実重視の問題であるため、その立証は膨大な費用がかかる。不確実な命題である。
消尽の原則
著作権者が著作物の特定の複製を販売するか、他の方法で所有権を譲渡すると、著作権者は、頒布方法を管理する権利を失う。
部品番号とマニュアル
ジョージ・ドアンは様々な形で破損している自動車を購入し、再販する前に本を修理した。 アメリカンブックカンパニーが著作権侵害を理由にドアを訴えたが、裁判所は退ける。
修理する権利は、所有権に固有の性質である。
p162 「書籍の所有権には、出来る限り元に近い状態で維持する権利が含まれる」
部品番号の所有権
乗用芝刈り機の大手メーカーである。トロ社がとった戦略。
トロは同社の部品番号システムを違法に複製したと言う理由で、R&Rプロダクツを訴えたか裁判所は虎の著作権の訴えを退けた。
ランダムに部品番号を付けるシステムは、創作性にまつわる最低限の基準を満たしていないと判断。
ATCは体系的に分類された番号で管理しているということを理由に同じ部品番号を記載したカタログを配布したホワットエバー・イット・テイクス社を訴えた。
これも退けられる。
修理マニュアルの著作権
近年、一部のメーカーが採用する新たな方
2012年、東芝はオーストラリアのブロガーティム。ヒックスに対して、彼のウェブサイトから多くのラップトップモデルの修理マニュアルを削除するように要求。 ヒックスのマニュアルが同社の著作権を侵害していると言う主張
ヒックスは訴訟コストを理解して、引き下がる他かった。
ifixitは修修理マニュアルを集めた「医療機器修理データベース」を構築すると発表。 新型コロナウィルス感染症が医療インフラを脅かしていたため、切迫するニーズを反映。
2020年、ステリスという医療用減菌装置メーカーがifixitにマニュアルの削除を要求。 裁判所がステルスに有利な判決を下すとは言い切れない
1、3分の1は部品名と番号のリストで、著作権の対象ではない。
2、コンポーネントの交換や調整プロセスの詳しい説明は「マージの法理」の範囲に含まれる。
マージの法理:アイディアを表現するときに、表現の自由度が低い場合、著作権は認められないと言う原則
3、オリジナルな表現が一部含まれていたとしても、ifixitはフェアユースを強く主張できる。
ifixitの主張がどれだけ強力であろうと、法廷でその主張を訴えようとすると、非常に高くつく。
この時は電子フロンティア財団が代理人を務めたため、ステルスの訴えを退け、今日もマニュアルは公開されている ソフトウェアと法の抜け道
著作権法はコードも保護対象とする。
1992年、MAIシステムズ→ピークコンピュータ社への訴訟。 ピークが顧客のコンピューターを立ち上げて、診断ソフトウェアをローディングした時、MAIのコードをデバイスのRAMに複製したことについて、著著作権侵害で訴えた。
ここ判例がファイルを開くか、プログラムを実行するたびに、著作権者の許諾か、何らかの法的根拠が必要になると言う解釈を作った。
しかし、複製は一時的な期間を超えて近く複製その他の方法で伝達されることを可能にするほど永久的でなければいけないと言うことから、裁判所は10数年後になってようやく異なる判断を下した。
この例から著作権侵害に新たな例外を設け、保守と修理、法的責任から切りはなした。
しかし、この複製は他のいかなる目的にも使えない。保守か修理が終わった後は破棄しなければならない。
この複製は、修理に必要なソフトウェアが既に機械内に保存されていない場合、所有者と修理プロバイダは複製を入手するか、作成する権利がない。
ソフソフトウェアを含む著作物へのアクセスを制限する、技術的保護手段(TPM)の迂回を違法とする。
成立当時は、著作物へのアクセスを制限できると言うことから、著作権者はデジタル配信を受け入れやすくなるだろうと言う考えだったが、その他のデバイスメーカーはまもなく第1201条を使えば、アフターマーケットの交換部品やサービスの競争を制限できることに気がついた。
この動きを裁判所は当然退ける。迂回は著作権の侵害行為と妥当な関連性がなければならないと言う判断が示される。
免除は修理擁護者にとって画期的な成功だったが、範囲は限られている。デジタルミレニアム著作権法を3年ごとに見直すと言うことにより、範囲を縮小したりする可能性が残っている。
発明の定義
1、対象範囲
機械、製品、組成物、方法
自然法則、自然現象は含まれない
3、非自明性があること
4、具体的で実用的で信頼できる用途が可能でなければならない。
特許権の存続期間は、通常20年
期間中は、幅広い独占権が与えられる
他人がその発明を製造、使用、販売することを妨げる権利の付与
消尽の法理:特定の製品を販売したあと、使用と譲渡に対して特許権者はコントロールを主張できない。
p179 重要なことに、特許取得済みの機械の導入には「使用可能な限り、その機械を使用する権利が伴う」。
修理と再構築
修理と再構築の区別について境界線はあきらかではなく、1850年のウィルソン対シンプソンの訴訟までさかのぼる。
工作機械の刃の交換は再構築になるのかという争点。
これは再構築ではなく修復行為
一般的に修理とは「腐敗、損傷、破損、あるいは部分的破壊のあとに、健全か良好か完全な状態に戻すこと。」
p183 最高裁によれば、中心的な問題は、その装置が「全体として使用済み」かどうかだという。最高裁は「使用済み」という言葉を、装置全体が耐用年数に達したという意味で使ったと思われる。装置が使用済みとみなされるのなら、その機能を元に戻す取り組みは、違法な再構築になる。その一方、もし装置全体が使用済みでないなら――たとえ一部の部品が使用済みでも――、合法的な修理によって、コンポーネントを交換するか新しくできる。
耐用年数を最大限使うための改造は、有効に活用するための所有者の権利の範囲内にある。
コンポーネントの修理・交換が許されていても、コンポーネントそのものが特許を取得している場合は独占的権利の対象となってしまう。
p189 特許の保護対象となる意匠は、新規性と非自明性があり、装飾的でなければならない。色彩、グラフィック要素を含む製品表面の装飾、三次元の構成や形状、あるいはこれらの組み合わせも含まれる。
法の解釈の変化から拡大されていき、コンポーネントの意匠特許も容易に取得できるようになったことから、企業は修理部品を独占している。
自動車業界
連邦巡回区控訴裁判所(特許紛争の専属管轄権を持つ控訴裁判所)が下した判決 フォードvs自動車ボディパーツ協会
フォードの見た目は消費者にとって機能的とみなされるべきだから部品の意匠は無効だと主張。結果敗訴。
2005年からメーカーが競合する修理部品の取締を強化している。意匠特許を利用して、非OEM部品の製造業者や販売、修理ショップに圧力をかけてきた。
アメリカの意匠特許法の歩み
1,連邦議会の意図を遥かに超えて、裁判所が意匠の対象を拡大してしまった。
「製品の意匠」という文言を広く解釈してしまい、本来は意図していなかった複雑な機械のような製品にも、それらの構成部品も、構成部品の一部分だけでも意匠特許を認める下地も作ってしまった。
もともと機械は「製品」に入っていなかった。
アップルvsサムスン控訴事件の控訴審で「製品」の範囲を広く定義。
2,連邦巡回区控訴裁判所の明確な指令に従って、意匠特許を取得するための重要な障壁を、アメリカ特許商標庁がほとんど排除してしまった。
実際はすでに開示された意匠――先行技術(あらゆる重要な点で同一)――でないことだけで意匠特許を取ることができる。
非自明性のテスト
1,先行技術の一次参考意匠(出願された意匠と基本的に同じ)を探す
2,一次参考意匠が見つかれば、出願された意匠の他の要素を含む二次参考意匠を探す。
一次、二次の組み合わせが通常の技術を持つデザイナーの中で自明であれば出願された意匠は自明であるとされる。
しかし、一次参考意匠と提出された意匠のごく僅かな違いにも敏感に反応する。
意匠は装飾的なものである必要であるが、機能的なもののデザインに関しても実用特許でなく意匠特許が認められてしまっている。ex,iPhoneの丸み、耐久性と持ち運びやすさを歌っている。
内部のコンポーネントも装飾的になり得る。ex,人工股関節は意志に対して宣伝されているため意匠的である。
欠陥がある解釈はどれも判例法の問題なので、法律が介入しなくても説得力のある議論を提示すれば軌道修正できると信じたい。。。
ヨーロッパの意匠権
アメリカよりも修理に及ぼす影響に対して自覚的。
p197 ヨーロッパの法律の下、EUの意匠指令とそれに続く規則は、意匠の扱いについて次のように定義している。意匠は「⋯線、輪郭、色彩、形状、質感及び/または素材⋯に由来する製品全体または部分の外観」をいう。
コンポーネントに適用されることもあるが、通常見えていなければならないなど厳格な基準。
修理に関連した意匠権の制限
1,「技術的機能によってのみ決定される」特徴に意匠権は適用されない。
2,「⋯製品が⋯機械的に別の製品に接続されるか、または他の製品のなかに、周囲に、他の製品に対して配置されるために、必ず正確な形状と寸法で再生産されなれけばならない」特徴を持つ製品について、権利の付与を禁じる。「マストマッチ」 充電ケーブルの先端に独占権を主張できないように。
適合はするが意匠的にマッチするものが一つしかない場合、消費者は純正品を求めてしまう。
この取り扱いについてはEU内で統一せず、修理部品については各国の既存の規則を維持し、現状のまま凍結。
オーストラリアの意匠法における、修理に対する意匠権侵害の抗弁。
複合部品――最低でも交換可能なコンポーネントを2つ有する製品――を修理し、外観を修復するために、意匠を具体化した製品の使用を認めている。
腐食または損傷したコンポーネントの修復、交換、付属品の交換、メンテナンスの実施を修理として認めている。
この抗弁が発動されると、修理以外で部品が使用されたことを、被告が知っていたはずだと意匠権者が証明しないといけない。
商標法は、公正な競争を促進し、悪辣な販売者から消費者を保護するという目的を果たす。
出どころを示す商標法が機能し続けるよう商標法が保証することで、企業は苦労の末に手に入れた評判から利益を得ることができる。
識別性
過保護はマイナス面もある。商標は永久に保護される。
一般的な言葉は商標に登録できず、識別性が必要である。
言葉
恣意的
Apple:日常的な意味がある既存の言葉。
空想的
Hulu:英語的には全く意味が感じられず造語として受け入れられる。(中国語では意味がある)
示唆的
Netfrix:特徴をほのめかすが、直接的には説明していない。
製品の形状や意匠
ギター好きは見た目でメーカーが分かる。
アメリカの商標法では商品の形状を単一の供給源と消費者が結びつけることを、商標権者が証明する必要がある。ハードル高すぎ。
EUでは商品の形状は本質的に識別可能であり、意匠をみた消費者がその出所を実際に連想する証明は必要ない。
「規範や習慣から大きく逸脱した商標のみ」が、類似商品に対して識別性を持つ。
機能性
製品をより機能的にしたり、生産コストを下げるような特徴はトレードドレスとして保護されない。
EU法でも同様。
とはいえ、メーカーは製品のコンポーネントをトレードドレスとして主張することに成功した例もある。
ハマーのミニチュアレプリカを出した玩具メーカーに勝訴したGM。
アップルvsサムスンでは、iPhoneの特徴は識別性があるが、機能性も持っているということで使用を退けることはできなかった。
言及的な使用
法定の指名的フェア・ユースの三段階のテスト
1,製品かサービスを商標を使わずに容易に特定できない場合、商標の使用が許可されるべき。
2,商標を使った側が、製品を特定するために必要以上に商標を利用したかどうかを考慮する。
3,商標権者がその使用を後援したか承認したという示唆があったのかどうかも考慮する。
商標権者と提携関係にあると偽らない限り、修理プロバイダは特定メーカーの商品の修理を専門にしていると表示できる。
消尽と輸入
販売後はその製品の使用と譲渡を管理する商標権者の能力は著しく制限される。
中古市場バンザイ!
修理によって再生された車は再生品と明記している限り、商標を削除する必要はない。
裁判所は、再販する製品に再び商標ロゴをつけて販売する再生業者の権利を認めた。
へえ〜〜〜Kai.icon
OEMの純正品以外の安価な選択肢を与える点、再生品を再販することによる製造中止品のコンポーネントの保護。
商標のついた商品が、商標権者が販売する製品と重要な点で違いがあるとき、商標侵害の可能性があること。
仕向けが違う製品の輸出入の制限。
なにを重大な点とするのかは基準がない。
公然と知られておらず、秘密に管理するためにそれに見合う努力を払う対象であり、経済的な価値のある情報のこと。
コカ・コーラの配合とか
営業秘密を不正な手段で取得した場合には不正行為に該当する。
ハッキングなどももちろん含まれるが、秘密保持契約や雇用契約の暗黙の守秘義務違反などに焦点が当てられる。
メーカーは修理について言えば、サービスマニュアル、診断情報、回路図、修理技術を重要な秘密だと主張する。
p223 修理に関する現在進行系の政策論争において、多くの企業が曖昧で根拠のない主張を繰り返す。消費者かサードパーティに修理情報を公開すると、特定の情報ではないにせよ、貴重な秘密が失われるというのだ。
営業秘密の落とし穴
1,秘密情報の取得がすべて不正ではない。
これそうなんだ!!!Kai.icon
2,企業が秘密だと主張する情報のすべてが実際に秘密とは限らない。
3,秘密漏洩が正当な理由を持つこともある。
企業の不正など。
営業秘密についてはフェア・ユースや不正使用の法理が認められておらず、この種の情報開示は保護されない。
内部告発者の保護がアメリカの「営業秘密保護法」やヨーロッパの「営業秘密保護に係るEU指令」にある程度組み込まれている。
アメリカの方は安全地帯は狭く、ヨーロッパの方は広い
修理と〝進歩〞
知的財産の根底にある一番の正当性は、創作性とイノベーションに対する投資を奨励するという法律の約束である。
進歩を促進するという指令は必ずしもすべてに優先するわけではない。
特許取得済みの医療処置を、法的責任に問われ得る恐れなしに施す権利まで医師に与える。これは患者の福祉が優先されている。
修理は環境、経済、個人の自主性に利益をもたらすため、同じように優先されるべきだという強い根拠がある。
知的財産法に内在する論理においてさえ、修理はもっと重視される価値がある。
p229 だが、法律が創作性のある生産に影響を与えると考えるならば、知的財産法の範囲とかたちをどう調整するかによって、システムが生み出す製品の種類が変わる。そのため、法律が修理を制限すると、製品ライフサイクルの短縮化を促し、製品の表面的な差異が重視されてしまう。もし知的財産を利用して修理を妨げることができるのなら、企業はマイナーなアップデートと見栄えの微調整という、定期的な流れを作り出すことに焦点を当てるだろう。
p230 対照的に、修理を推奨する環境では、純粋なイノベーションに対する、より強力なインセンティブを生み出す。四年前のスマートフォンや一〇年前の自動車を確実に、低コストで使い続けられるなら、重要な新機能を待ってから買い替える可能性が高くなるだろう。修理はさらに、経済学者のヨーゼフ・シュンペーターが創造的破壊と呼んだ、新しいテクノロジーが古いテクノロジーに取って代わるプロセスを促すことさえあるかもしれない。 知的財産法の専門家リア・チャン・グリンヴァルドとオファー・トゥル=シナイ
進歩は、新たなテクノロジーや作家の素晴らしい小説が作られるだけでは起きず、公衆の手に届かなければならない。
第6章 修理と競争
19世紀後半、鉄道王が輸送ネットワークを支配し、独占企業が石油、鉄鋼、砂糖の市場を支配した。トラスト(企業合同)は競争力の制約を受けなかった。連邦議会は、市場支配力の集中的な蓄積を制限するために反トラスト法を制定。 自由で束縛のない競争を維持するために、経済的自由の包括的な憲章とすることが目的。
文言としては「取引を制限するすべての契約⋯⋯結合、または共謀」を禁じているが、実際は合理の原理によって違法性が判断される。
最高裁が合理の原則を採用すると、シャーマン法は弱体化。それに対して連邦議会はクレイトン法を制定。 「競争を実質的に削減するか、独占を作り出す傾向がある」場合、購入者が競合他社の商品を使用するか、競合他社と取引してはならないという条件で、商品を販売することも禁じている。
とはいえ一般的に価格差別に対する異議申し立てが認められた訴訟はほとんどない。
100年にわたる使用
有力企業を規模の小さい競合する企業体に分割。
石油精製市場を牛耳っていたスタンダード・オイルを七社の地域企業に分割した。
1384年 AT&Tに対しても地域通信事業を8つの地域ベル電話会社に分割した。 1999年 司法省がマイクロソフトを反トラスト法で提訴 当初、当初OS部門とOfficeなどの部門の分割是正命令を下した。
最終的には、競合するサードパーティのアプリケーションに対してWindowsをより受け入れやすいものとすることで分社化を免れた。 2020年 FacebookとGoogleに対してに対して独占力を違法に維持していると主張して提訴。 1936年 連邦最高裁判所はIBMがパンチカードを独占しようとしていることに対して反トラスト法に違反していると判断。 1952年 再び別件でIBMを提訴。4年後、同意判決によって決着。IBM機器の所有者と修理プロバイダに、部品と部品組み立て品を適正な価格と条件で販売することを約束。従業員に実施している保守と修理トレーニングとすべての技術マニュアル、取説、パンフレット、設計図を独立系の修理プロバイダも利用できるようにすると約束した。 イーストマン・コダックはハイエンドのコピー機を独自規格で販売。修理も市場の80-95%を占めていた。
1980年代はじめ、元社員が独立系サービスとして修理に参入。脅威に関じたコダックは指針を打ち出す。
1,独立系サービス組織と彼らを雇用した顧客に対して交換部品の販売を取りやめた。
自力で修理する人かコダックのサービスに金を払った人にしか販売されなかった。
2,サードパーティの部品メーカーを説得して、部品をコダックに排他的に販売するように仕向けた。
3,独立系の部品販売業者とコダック製機械の所有者に対して、独立系のサービス組織に部品を販売しないよう圧力をかけた。
4,中古機の入手を制限しようとした。
独立系サービス組織グループはシャーマン法に違反していると主張し訴えた。
最終的には最高裁まで持ち込まれ、正当性を訴えるコダックの主張は棄却された。
コダックは消費者は費用便益分析を実施するだろうと想定して、価格設定を競争価格と独占価格の二元論で捉えている。
しかし、一般の消費者にとってはデバイスの総所有コストを計算するプロセスが複雑すぎて難しい。
情報を入手して正確に評価するコストはあまりにも高い。
この例で重要な論点は、知的財産権と反トラスト法の間の緊張関係。
この権利と責任についての関係は今なお議論が多く、逆の判例もある。
修理市場に対する反トラスト法理論
競争を違法に妨げる恐れがある。
別のところで買っても良い商品を抱き合わせることで、市場支配力を持っているということだけで購入を強制できてしまう。
原告が証明する必要のある要素
異なるサービスが存在していること。
製品かサービスの販売が別のサービスの購入を条件にしていること。
売り手が経済的な権力を有していること。
その抱き合わせが少なからぬ量の商取引を排除すること。
上記の要素に照らし合わせると、アップルは部品と修理とを違法に抱き合わせているといえる。
2,取引根絶
基本的に、反トラスト法は取引相手について裁量権を行使する権利を妨げるものではないが、市場支配力を持つ企業においては対象になることがある。
独占を維持したり形成するための取引根絶。
裁判所が焦点を当てることができるのは、確立していたビジネス関係の破綻であり、アップルなどを取引根絶で提訴するのは難しい。
様々な形を取ることがあるが、排他的取引を通して発展するはずだった競争を妨げてしまう。
規模の小さい競合他社が小売業者にアクセスするのを根絶された場合など、市場の競争力が低下する。
例
アップル製品の充電チップを作っているインターシルという会社はアップル以外に充電チップを売ることを禁止された契約を結ばされている。
15ドルの充電チップだけの交換という選択肢を取り上げられている。
正規の修理プロバイダプログラムもサードパーティを禁じている限り排他的契約とみなされる。
明確にサードパーティを禁止しているわけではないが実質一択にするというグレーな戦略。
アマゾンとアップルの協力関係もモロ排他的取引。
4,略奪的な製品設計
WindowsでIEの削除オプションを隠してブラウザを変更できないように。
反トラスト法執行のハードル
シカゴ学派による反トラスト法の中核的使命の再定義
競争市場を構造的に保護するための法体系ではなく、消費厚生と配分効率を最大化するための実践として反トラスト法を捉え直した。
問題は市場の非効率性であり、その観点に立つと、独占は悪いことではないと言えてしまう。
立法史的な立場からは批判されたが、最高裁に同意者が現れたことから、法廷でのアプローチが変わる。
問題点
性善説的な、独占企業には自己を修正する力があるという仮定。
法律規制以前の大量の独占例があるのに。。。
効率性の観点から反トラスト法を概念化すると、反競争的行為に対する正当化や言い訳が無限にできる。
訴訟コストが高いということ。
合理の原則の判断をするために、コストが高くなりトラスト法訴訟のハードルがとても高くなる。
他方で、合理の原則に基づく原告の賞賛はとても低く、1999-2009年で99%が被告の勝利という調べもある。
最近は自由放任主義への批判的な言説などもあり、反トラスト法の規則を強化する必要性が認知され始めた。
法が変わる目処はないが、裁判官の決定が重要なので、いい流れではあるかもしれない。
ヨーロッパの競争法
アメリカの反トラスト法と類似視点が多いが、強硬な執行をより行いやすい環境を作り出しているという点で違いがある。
欧州委員会は幅広い調査権限を持ち、法律違反を犯した企業に、多額の制裁金を科すことができる。
アメリカが効率性に固執している一方、ヨーロッパは中小企業の保護、競争市場構造の存続、統合された単一市場の維持などいくつもの目標の一つとして効率性を考える。 大きな違いとして、知的財産権の要素の組み込みがある。
第7章 修理と消費者保護
消費者の修理に対する認識
不公正かつ欺瞞的行為
保証
消費者を計画的陳腐化から守る
第8章 修理を再構築する
修理を決断する要因
アメリカで行われた調査によると、消費者がデバイスの修理に前向きで、興味を持っていることが読み取れる。
しかし修理費が高く、部品やツールが手に入らないという重大な障害がある。
欧州委員会の「循環型経済への消費者の関与に関する行動調査」(第7章参照)の内容と一致する。
価格以外の要素が修理するかどうかの決定にどんな影響を与えるかをより深く理解する実験が含まれている。
1、必要な労力のレベル
修理プロバイダの検索、選択肢の比較などの労力が増加すると修理を選ぶ割合が減る。
2、誰が修理を行って、部品の供給源は誰なのか
意外と公式プロバイダとサードパーティの違いによっては割合が変わらなかった。
法を改正する
デジタルミレニアム著作権法第1201条は大幅に縮小するか、完全に廃止すべき。
意匠特許の基準を上げて、特に機能上の利点を提供する交換部品の保護を除外すべき。
反トラスト法は、アフターマーケットの競争を損なう抱き合わせ販売やその他の慣行をより積極的に対象とすべき。
アメリカの連邦議会議員は修理に焦点を当てた新たな法律を提案してきたが、目立った成果はない。
自動車所有者の修理権法が提案され車両の修理に関する制限を撤廃しようとした。
自動車の診断や整備、保守などに必要な情報やツールを所有者とサービスプロバイダに提供するよう自動車メーカーに義務付けようとしたが、連邦議会の支持が得られなかった。
2020年に提出された重要医療インフラの修理権法を提出。
パンデミック中の問題に対しての法案。
知的財産法に例外を含む法案。
市場を変える
設計を変える
規範を変える
修理する権利運動
エピローグ
原注
解題 修理する権利、あるいは私たちの生を取り戻すための抵抗運動(吉田健彦)