1.7 標準化(pp.64-69)
インターネット・プロトコルの進化の背景にある標準化の流れについて調べる
1.7.1 標準化とオープン・ソース(pp.64-65)
質の良いネットワーク標準は、標準に従った製品の市場を拡大し、規模の経済性とより良い実装をもたらし、製品の価格低下と普及につながる
標準に従うことで相互に利益を生むことを、後ろの文章では「相互運用性」と言っている
世界の国際標準化
Wi-Fi:
802.11 標準は実装上の選択が沢山あり相互運用性が低かったため打開策として、WiFi Alliance という業界団体が作られた
ソフトウェア定義ネットワーク:
ONF(Open Networking Foundation)は相互運用性を保証する活動をねらいとする
バークレー・ソケット:
他の端末とTCP/IP 通信を行うための API(Application Programming Interface)
プロトコル定義にサービス・インターフェースの具体的な実装の決まりはないが、優れたプロトコルと同様に優れたサービス・インターフェースは普及につながるという例
標準の2つのカテゴリ
デファクト(de facto:"from the fact" のラテン語):公式の計画なしにできた標準(HTTP、Bluetooth)
デジュリ(de jure:"by law" のラテン語):何らかの正式な標準化機関の規則に従って採用された標準
コンピュータ・ネットワーク標準領域の国際標準機関には、各国の政府間の条約により設立されたものと、そうでないものがある(後述)
標準、企業と評価団体の関係は複雑
3GPP(Third Generation Patnership Project):3G 携帯電話の標準を推進する電気通信団体間の連携によるもの
1.7.2 電気通信の世界における紳士録(pp.65-66)
紳士録って何?
英語の第5版の目次(https://csc-knu.github.io/sys-prog/books/Andrew%20S.%20Tanenbaum%20-%20Computer%20Networks.pdf)
https://scrapbox.io/files/656415ae1f6686001b16bdc8.png
おそらく元ネタは「Who's Who in the World」というアメリカの社会的に有力な著名人の名鑑
日本語の「紳士録」は "Who's Who" の訳語として明治初頭に出現した言葉
「紳士」が宛てられたのは、当時の社会的有力者=男性だからと考えるのが自然
"Who's Who in the ほにゃらら World" は「ほにゃららの世界における有力者たち」と訳せば理解しやすい
非ジェンダーニュートラルな言葉を使うことで却って理解の妨げになっていないだろうか? 出身校の教授……
以降の節は、各分野の標準化に貢献している有力なプレイヤーの紹介
電話会社の法的地位は国により異なる
民営の電話会社が多数ある国もあれば、郵便、電信、電話などすべての通信を国が独占する国もある
後者は、国営企業または政府系組織のPTT(Post, Telegraph & Rwlwphonw sminiarerion:郵便電信電話省)
ITU(International Telecommunication Union:国際電気通信連合)
1865年に作られた現在の ITU の前身は、電信と電話の標準化を行った
1947年、ITU は国連機関の一つになった
およそ 200 の政府会員:国連加盟国、PTT(通信に関する政府系組織)のないアメリカは国務省が担当している
およそ700 のセクター会員、準会員:電話会社、電話設備製造者、コンピュータ製造者、チップ製造者など
3つの部門(sector):ITU-T(電気通信部門)、ITU-R(無線通信部門)、ITU-D(開発部門)
ITU-T は電話、電信、データ通信インタフェースに関して技術的な勧告を研究グループで作成する
3000 を超す勧告を作成:H.264 ビデオ圧縮や、X.509 公開鍵証明書など
1.7.3 国際標準の世界における紳士録(pp.66-68)
ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構) が国際標準を作成・出版している
構成員は 161 の構成国の国内標準化機関(例えば米国なら ANSI)
対象はなんでも(ボルト・ナット、電信柱の塗装、ココア豆、漁業用網、婦人下着など)
電気通信分野では ITU-T と互換性の面で協力
ネットワーク、コンピュータ、ソフトウェアを含む情報技術を扱うTC(技術委員会)のJTC1 がある
各 TC は複数の副委員会(SC)→作業部会(WG)に分割され、WG が実際の作業をボランティアで行う
ISO で標準ができるまで
標準が必要だと感じた標準機関が、作業部会を組織して CD(Committee Draft:委員会草案) を作る
構成員の大部分が賛成すれば、改訂版の DIS(Draft International Standard:国際標準草案)を作成する
意見と投票のための回覧結果にもとづいて IS(International Standard:国際標準) の最終文面を用意する
承認されたら公表
NIST(National Institute of Standards and Technology:米国標準技術研究所) は米国政府の購入品に必須の標準を発行
IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers:米国電気電子技術者協会)
電気技術とコンピュータ分野の標準を開発する標準化グループを持っている
802 委員会は多くの種類の LAN を標準化し、本書ではいくつか成果を学ぶ
802 作業グループの成功率は低いが、成功例(特に 802.3 と 802.11)の産業と世界への影響力は大きい
1.7.4 インターネット標準の世界における紳士録(pp.68-69)
インターネットの標準化機構を支えている人々は無政府主義で、標準化とは真逆の思想を好む
無政府主義(アナーキズム):国家や政府による統治(中央管理されること)を否定的に捉え、最小化を望む考え方
「大まかな合意と走るコード」
IETF(後述)講演で MIT の David Clark 博士が残した格言
原文:We reject: kings, presidents and voting. We believe in: rough consensus and running code.
https://www.nic.ad.jp/ja/newsletter/No82/0110.html
(意訳)「我々は王や元首や投票を否定するかわり、大まかな合意と走るコードを信頼するのです」
歴史
IAB(Internet Activities Board、後の Internet Architecture Board):ARPANET の監督のため DoD が組織した非公式な委員会
標準化の成果は RFC(Request For Comments) という技術勧告としてオンライン公開した
インターネットの巨大化に伴い、このやり方は非効率に
1989年、IAB 再編
研究者は IRTF(Internet Research Task Force) と IETF(Internet Engineering Task Force) に移された
IRTF は長期、IETF は短期の課題に取り組んだ
作業部会が 70 まで増え、グループ化した領域の座長が運営委員会に集まるように
当初、約 10人いた IAB の構成員は指名制だったが、後に作成された インターネット協会(Internet Society) は選挙制で、かれらが IAB の構成員を任命するようになった
標準化手順は ISO にならったものが採用された
Proposed Standard(提案標準):基本的な考え方を RFC で説明して十分な関心を集めると達成
Draft Standard(標準草案):きちんと動く実装を徹底的にテストすると達成
Internet Standard(インターネット標準) :考え方が正しくソフトウェアも動作すると IAB が認めれば宣言
1994年、Tim Berners Lee が World Wide Web Consortium(W3C) を設立
HTML や Webのプライバシーなどの話題で 100 超の W3C 勧告を生んだ