メタ記憶: 記憶のモニタリングとコントロール
清水 寛之(著) 金城 光(著) 村山 航(著) 川口 潤(著) 苧阪 直行(著) Moises Kirl de Carvalho Filho(著) 楠見 孝(著) 犬塚 美輪(著) 藤田 和生(著) 梅田 聡(著) 山鳥 重(著) 清水 寛之(編集)
私たちは何をどのように覚え,思い出し,忘れるのか。
記憶を支える認知活動=メタ記憶という観点から,
記憶という複雑な精神機能の本質に迫る。
メタ記憶とは記憶を支えるさまざまな認知機能や認知過程を含む広範な概念である。このメタ記憶は基礎心理学の分野でも応用心理学の分野でも,非常に大きな注目を集めている。本書は我が国におけるこの領域の最新の研究動向をレビューし,その成果について解説し,今後の研究の方向性を示唆するメタ記憶の研究解説書である。
【執筆者一覧】(執筆順)
清水寛之:第1章,第4章,第7章
金城 光:第2章,第7章
村山 航:第3章
川口 潤:第5章
苧阪直行:第6章
Moises Kirl de Carvalho Filho:第8章
楠見 孝:第8章
犬塚美輪:第9章
藤田和生:第10章
梅田 聡:第11章
山鳥 重:第12章
目次
第1章 メタ記憶研究の歴史的背景
第1節 はじめに
第2節 心理学成立以前のメタ記憶概念
1.古代ギリシャ・ローマ時代の記憶観
2.中世・近代におけるメタ記憶をめぐる議論
第3節 心理学領域におけるメタ記憶の研究史
1.初期の心理学におけるメタ記憶関連研究
2.20世紀以降の心理学におけるメタ記憶概念の展開
3.メタ記憶研究の今後の方向
第2章 メタ記憶の理論とモデル
第1節 はじめに
第2節 メタ認知の要素・分類に関する理論やモデル
1.Flavell(1981)のモデル
2.Brownら(1978, 1983)の理論
3.メタ認知的知識+メタ認知的活動+αの理論やモデル
第3節 メタ認知のメカニズムやプロセスに関する理論やモデル
1.Millerら(1960)のTOTEユニットモデル
2.NelsonとNarens(1990, 1994)のメタ記憶のモデル
3.特定の記憶現象に特化したモデル
第4節 その他の理論的分野
1.メタ認知と推論アプローチ
2.メタ認知と意識
3.メタ認知と中央実行系
第5節 終わりに
第3章 メタ記憶の測定
第1節 実験におけるメタ記憶の測定
1.記銘前におけるメタ記憶の指標:学習容易性判断
2.記銘中におけるメタ記憶の指標:学習判断
3.想起時におけるメタ記憶の指標:既知感判断とTOT状態
4.想起後におけるメタ記憶の指標
5.正確さの算出方法
第2節 質問紙によるメタ記憶の測定
1.代表的なメタ記憶質問紙
2.メタ記憶質問紙は何を測定しているのか
第3節 幼児・児童に対するメタ記憶の測定
1.インタビューによる測定
2.課題による測定
第4節 終わりに
第4章 メタ記憶のモニタリング機能
第1節 はじめに
第2節 記憶モニタリングの理論的枠組み
1.メタ記憶における記憶モニタリングの位置づけ
2.記憶モニタリングと記憶コントロールの関係
第3節 メタ認知的知識に関する研究知見
1.メタ記憶質問紙によるメタ認知的知識の検討:記憶能力・記憶行動の自己評価
2.日常生活における記憶方略の利用頻度の調査
第4節 記憶モニタリングに関する研究知見
1.学習容易性判断
2.学習判断
3.既知感判断
第5節 まとめと今後の課題
第5章 メタ記憶のコントロール機能――記憶の意図的抑制
第1節 はじめに
第2節 記憶の忘却と抑制
第3節 認知的コントロールと記憶の意図的抑制
1. Think/No-Think課題
2. 意図的抑制の神経基盤
3. 感情情報の意図的抑制
第4節 記憶コントロールの個人差と応用的側面
第5節 おわりに
第6章 メタ記憶とワーキングメモリの脳内表現――社会脳をめぐる自己知(TOMS)と他者知(TOMO)の問題
第1節 はじめに
第2節 メタ認知とアウェアネス
1.方略としてのメタ認知(記憶)
2.アウェアネス
第3節 メタ認知の表象と意識
1.メタ表象の形成
2.リカーシブな意識
第4節 メタ認知の再帰性
1.再帰性とメタ脳
2.容量制約
3.メタ脳の進化
第5節 メタ認知の脳内表現
1.メタ表象の脳内表現
2.TOMOとTOMSの脳内表現
3.個人差とメタ認知
第7章 メタ記憶の生涯発達
第1節 はじめに
第2節 記憶発達におけるメタ記憶の位置づけ
第3節 幼児期のメタ記憶
1.メタ認知的知識の萌芽
2.メタ認知的活動の発生
第4節 児童期のメタ記憶
1.メタ認知的知識の充実
2.メタ認知的活動の向上
第5節 高齢期のメタ記憶
1.メタ認知的知識の変化
2.メタ認知的活動の変化
第6節 メタ記憶の生涯発達
第8章 メタ記憶と社会・文化
第1節 メタ記憶に対する社会・文化的アプローチの意義
第2節 メタ記憶プロセスの多面性
1.記憶に関するメタ認知的知識の社会・文化的要因
2.記憶モニタリングに関連する社会・文化的要因
3.記憶の自己参照信念に関連する社会・文化的要因
第3節 社会・文化の変化とメタ記憶の今後
第9章 メタ記憶と教育
第1節 はじめに:教育におけるメタ記憶の位置づけ
1.学習者のメタ記憶
2.教授学習場面におけるメタ記憶
第2節 学習前のメタ記憶
1.何を知っているか:領域と方略の知識
2.どう学習するか:方略の選択
第3節 学習中のメタ記憶
1.学習状態の評価
2.学習行動の修正
第4節 学習後のメタ記憶
1.学習状況の評価
2.次の学習へ
第5節 メタ記憶の観点からの学習指導
1.方略の自発的な使用とモニタリング方略
2.他者の視点を活かす
3.理解モニタリングを促進する仕掛けづくり
第6節 まとめ
第10章 メタ記憶の進化
第1節 メタ認知の適応的意義
第2節 ヒト以外の動物におけるメタプロセス研究
1.確信のなさの認知
2.知識の有無の認知
3.メタ記憶
4.エピソード記憶
5.未来への心的時間旅行
第3節 内省的プロセスの進化
第11章 メタ記憶の神経科学的基礎
第1節 メタ記憶への神経科学的アプローチ
第2節 脳損傷に伴うメタ記憶の障害
1.記憶障害とは何か
2.メタ記憶障害の把握
3.前頭葉損傷とメタ記憶障害
第3節 展望記憶からみたメタ記憶障害
1.親近性判断と「し忘れ」現象
2.メタ記憶としての展望記憶
3.前頭葉損傷と展望記憶障害
4.存在想起と検索モード
第4節 メタ記憶のリハビリテーション
1.認知リハビリテーションとは
2.展望記憶の回復支援
第5節 メタ記憶の神経基盤: 脳機能画像研究の成果
第12章 健忘症と病識――神経心理学的臨床からみたメタ記憶
第1節 メタ認知と病識
第2節 記憶障害とその病識(洞察能力)
1.コルサコフ症候群
2.純粋健忘症候群
3.孤立性逆向健忘
4.作話と錯記憶
5.一過性全健忘
6.無自覚記憶
3節 健忘に対する病識の構造
1.病識の階層
2.他の病態無認知との関係
3.病識欠損の責任病巣
4.記憶能力客観的評価の困難性
引用文献
人名索引
事項索引