なぜ売買と交換は別に定義されているのか
これなんで売買と交換を別に定義してるんだろう #質問 第五百五十五条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
第五百八十六条 交換は、当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約することによって、その効力を生ずる。
nishio.icon「交換の定義から"金銭の所有権以外の"を外せば、どちらも1つの条文で表現できるじゃないか」という趣旨の質問かと思う。なんで分かれてるかというと、他の条文が「売買」「交換」のどちらかだけを使うケースがあるから。
第二款 売買の効力
(他人の権利の売買における売主の義務)
第五百六十条 他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
(他人の権利の売買における売主の担保責任)
第五百六十一条 前条の場合において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない。
これは売買についての規定なので、交換については適用されない
具体的に、たとえばAliceがあるカメラの所有権をあなたに売る契約をしたとする。しかしこのカメラはBobのもので、Aliceは所有権を持っていなかったとする。この場合は売買だからAliceはBobからそのカメラの所有権を取得してあなたに移転する義務を負う。それができない場合、買主(=あなた)は契約の解除をできる。
契約の解除については
第二章 契約
第一節 総則
第三款 契約の解除
(解除権の行使)
第五百四十条 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
というわけであなたはAliceに対して「解除するよ」と伝えるだけでこの売買契約を解除できる。
一方、あなたがそのカメラに対して代金を支払うのではなく、たとえばMacBookの所有権を渡すと約束していた場合、これは売買契約ではなく交換契約である。あなたがAliceからカメラを受け取れなくて困ったとしても、売買契約に対する規定である560条、561条を使うことはできない。あなたは解除権を有しないので、「解除するよ」と伝えるだけで解除することはできない。
そこで代わりに541条を使う。
(履行遅滞等による解除権)
第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
例えばあなたがAliceに「1ヶ月以内に渡せよ」と催告し、Aliceが1ヶ月以内にカメラを渡さなかった時、541条を根拠として解除権を得る。この状態になってから「解除するよ」と言えば解除できる。