ぼくはみなもになりたかった。
ぼくはみなもになりたかった。なににもなれずにたゆたうみなも。なににもなれないまま、なにかを映す、そんなものになりたかった。
自己を考えたときに……何年前ぐらいかなぁ。結構前に考えたこと。
なんか、なんだろうね。自分は何者にもなれない、と思っていて、「何者にもなれないまま、なにかになるにはどうすればいいんだろう」と思ったのだったっけ。
なにものにもなれないことを考えて、なににもなれないなら、どうせなら、“なにか”ではないことが利点になればいいと思って、だから、人を映す鏡みたいなものになりたくて、けれど鏡よりは、静かな湖の水面みたいな、凪いだものになりたかった。 覗き込んだ時にだけ人が映り、それは安定した像ではなくて、手で触れたらゆらめくみたいな。
水であることは結構重要。風で揺れることもそうだし、なにかを投げ入れたら波紋が広がるのもそうだし、それは変化するものであることの象徴だから。
あと、やっぱ静かな水の丸い形って、落ち着くじゃん? そういう、人を落ち着かせるものになりたいよなぁ。