サイダー
サイダーが飲みたくなったから、彼のことを呼んだ。何かあったの、と言われて、サイダーが飲みたかったんだよ、と言ったら、すこし笑われて、怒られた。なんか悩んでたりするのかなとか思って、とか言ってきたから、本当に悩んでいたらそんなこときっと僕は言わないよと僕は言った。確かにそうだよなと彼は言って、真面目な顔つきになった。でも今回は本当にサイダーが飲みたかっただけだからそんな表情しないでよ、サイダー飲もうよ、僕は彼にリュックから取り出した瓶入りのサイダーを渡した。なんで手持ちでサイダー持ってんだよ。急に飲みたくなって、しかも、雄也と飲みたくなって、でも瓶のサイダーなんて普通売ってないから、Amazonで買ったんだよ、そしたら昨日届いたから、誘ったの。ぼんやりと木々や遊具や空を眺めながら、いや、眺めているように僕には見えただけだけれど、そういった素振りを見せながら、そうか、と彼は言った。うわこれ思ったより冷たいな、さっき冷蔵庫から出してきたの、ううん保冷剤と一緒に入れてきたんだ、そこまでしてくれたのかよ。ぷしゅ、と小気味いい音が鳴った。彼は僕よりも先に、断りも合図もせずにサイダーを開けていて、ほんの少し笑ってしまった。僕はサイダーを開けるのをまだ保留したまま、自分の手の温度でぬるくなってしまうだろうなとか考えながら、雄也とサイダー飲みたくなるってどういうこと、とか聞かないの、と、僕の中でも答えの出ていなかった問いをあえて彼にぶつけてみた。彼はすこし動揺したようにして、なんでだろう、と言った。なんでだろう、でも、そういうのってあるのかなと思ったから。彼は自分の考えることを言葉にすることが苦手だとよく言うが、そうでもないよなあと僕は思った。そっか、ありがとう。僕は言って、サイダーを開けた。舌を撫でる温度はすこしぬるくなっていて、けれどこの怠さが夏だよなあとか、甘ったれたことをまた考えて、彼の方を見た。彼はまた木々や遊具や空を眺めているような動きをしながら、するするとサイダーを飲んでいた。僕は雄也のこの姿が見たかったのかもしれないな、僕がほろりとこぼすように言うと、なんだそれ、と彼は笑った。
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