台風の詩
台風なんて、なかったみたいだ。
徹夜をして、窓のそとをずっとぼんやり眺めていた。
眼鏡をはずした瞬間、世界にたくさんあったはずの情報が、急に、すん、と輪郭を失って、あかるい上澄みだけが見えるようになった。
明るくなってきたから、くつしたのまま外に出てみた。
世界は思っていたよりも元気で、うれしかったけれど、すこし拍子抜けしてしまった。くつしたには水滴ひとつつかなかった。
はちみつをたくさんいれた紅茶、あまくておいしいから一緒に飲もうよ。わたしと違って君は目がいいから、見なくてもいいいろんなものが見えてしまうみたいだけれど、それでも、できるならきたないところは見たくない君のために、わたし、洗いものはちゃんとするからさ。
カラスが鳴いている、眼鏡をはずしたら、すこしだけ、ほんの少しだけ耳と鼻がよくなった気持ちになる。
水がつめたい、朝日がきれい。
紅茶があたたかい。
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