友情
好きでいられないひとの横で笑っている。あまり好きではない音楽がふわふわふわふわと車内には漂っていて、体がどんどんと凝り固まっていく。頑張って運転をしてくれているひとの横でうんと伸びをすることもなんだか躊躇われて、凝り固まっていく体はそのまま放置している。
「ねぇ」
居心地は良い。けれど、居心地が良いだけで、それ以上でもそれ以下でもない。居心地が良いことは大切なことだけれど、それでも。
「どうしたの」
「いまからめっちゃベタなこと聞くよ」
「うん」
窓の外は暗闇につぶつぶと浮かぶたくさんのまちの光でとても綺麗だった。
「男女の友情ってあると思う?」
彼のほうを向いてみた。当たり前だが彼はまっすぐに前を見ていて、たしかに整った顔だなあと他人事のように思う。整った顔だし、やさしいし、いいひとだと思う。思って、それで? と思う。それで? だから? つまり? わたしの頭のなかには、彼に対してそれ以上の広がりがない。
「いや、ないと思う」
わたしの逡巡の上をするりと滑っていくような返事だった。
「即答だねぇ」
「だって、無いよ」
「どうして?」
前の車がすこし危なげに揺らめいて、ブレーキがかかる。っと、あぶないなぁ。声を荒らげるでもなく、むしろいつも通りすこし低くて聞きやすい温度で発されたその声に、もうじゅうぶんすぎるほど浴びた彼のやさしさをまた感じる。
「どうしてって、なんていうかな」
かち、かち、かち、とウインカーが鳴っている。
「男がそうさせないんだよ」
付き合っていない私と彼のあいだ。彼はしっかりと前を見ている。私はぼんやりと外の夜景を眺めている。
「わかる気もするし、わかんない気もするな」
「わかんなくていいよ」
ははは、と笑いながら彼は言う。あれほど即答したということは、私のことも、彼は友情にさせないのだろうか? それとも、このような話を振ってくる女など、女としても見られていないのだろうか?
きっと前者なのはわかっている、わかっているけれど、後者だと思っていたい。彼とはこのまま良い関係で、友達だよととなりでにこやかに微笑んでいたい。
「なんでそんなこと聞いたの」
「えぇ、なんとなくだよ」
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