MIXのメモ
MIXは引き算
よく言われる言葉。
MIXとは音を重ねることである。重なった分だけ音がデカくなったり濁ったりする。デカくなりすぎた音を均したり濁りを何とかすることがMIXという作業なのだとすれば、MIX作業とはすなわち「音を削っていく」作業のことにほかならない。
低音域は狭い、高音域は広い
低音域はにごりやすい
人間が聞き取れる周波数(可聴領域)の限界は20Hz~20kHzと言われている(以下、kは1000の意味。つまり20kHzは2万ヘルツ)。DAWで操作できるのもほぼこの範囲である。
低音域は1Hz変わっただけでも人間の耳には大きな違いを感じさせ、1Hzの違いも容易に聞き取れる。一方高音域になるほど周波数の変化の聞き取りは難しくなる。低域は混み合っていて、高音域は隙間がある。要するに、低音域は濁りやすい。
低音域の処理をキッチリ丁寧にすることが良いMIXの秘訣である。
低音域は定位がわかりにくい
低音域は左右のどちらから鳴ったかわかりにくい。また、真ん中以外から鳴った時に不安定さを感じやすい。
低音楽器はなるべく真ん中に寄せて動かさないのが理想。許すなら低域のみモノラル化してしまっても良い。
EDMとかでシンセベースの音を左右に広げたような音色の曲もあるが、実はあれも実際のベース音域よりも高い音で鳴っているシンセを重ねているだけで、ベースのみがベース音域で左右に広がっているというケースはほとんどみかけない。
低音にベースとキック以外の音の要素を持ち込まない
もとからベースとキック(バスドラム)がない曲なら別だが、ある場合はその2つの楽器をバランスを取って入れるだけでもう低域はパンパンになるはずだ。それ以外の楽器の低音域を持ち込ませないのはMIXのひとつの指標になる。私はベースとキック以外の楽器はすべてEQでローカットしている。ギターやピアノなど、ほとんど必要ないのに意外と低域を脅かしている楽器は多い。これらの基音以下の周波数をカットするだけで低音域はだいぶスッキリする。
サイドのローはカットする
低音域にサイドは要らない。MS処理ができるならサイドのローはカットする。
ローカットのポイント
基本的にその楽器が鳴らす一番低い基音より下はカットして良い。
ただし、アコギをソロで鳴らす時の胴鳴りのような、それ自体が楽器の音色を特徴づけるものであるときはあえて残しておきたい。逆に言うと多数の楽器のアンサンブルの場合は、胴鳴りのような低音はかなり邪魔になるのでカットされることが多い。
基音をちょっとでも削ると急激に音はやせ細る。あまりシビアにやると曲の途中で急にやせ細ったような違和感が出てしまうのである程度下に余裕を見てカットする。
逆に、基音を削ると音がやせ細るのを利用して、ラジオボイス的な軽い音を表現したいときは積極的に基音を削っていく。同時にハイも削っていくとなお良い。
メインボーカルはしっかり基音を入れて、上ハモは基音をすこし削って軽くするなんてのがパターンだと思う。さらに下ハモをどっしり入れたいときはオクターバーで強調してしまう手もある。
ハイは?
高音域帯は余裕があるのでローほどシビアにハイカットをする必要はない…少なくともMIXの段階では。ハイをどう出すかはアーティストや曲の音楽性の違いの出しどころなので、マスタリング段階まで来てから全体(たとえばアルバムの他の収録曲など)のバランスを見て考えても良いと思う。
特定の楽器が耳に痛いという場合はその痛いところだけダイナミックEQやディエッサーなどで凹ましても良いかもしれない。
でも「耳に痛い高音」が鳴る箇所って聞く人や再生機器によって大きく変わるので難しい。私はモニタースピーカー、モニターヘッドフォン、iPhone付属のイヤフォン、家のコンポ、カーオーディオ、100円ショップで買ったスピーカー、などで聴き比べしている。
鳴ってない音で隙間を埋めようとしない
例えば中低音域が足りない、スカスカしている、と思うなら、その原因は中低音域で楽器が鳴ってないからである。EQで「音が鳴ってない音域」を上げても濁るだけで良い結果になることはほとんどない。
大人しく打ち込みに戻って楽器を足す、厚みのある音色に変える、あるいはコーラス、オクターバーなどで厚みを稼ぐなどの処理が必要。EQだけでなんとかはならない。
音量調整目的でのコンプは使わないのが理想
録音状態が良ければ音量調整にコンプは要らないと考えている。打ち込みだけで完結しているDTM環境ではMIXでコンプが必要になるケースは多くない。フェーダーだけで完結できるのが理想。
とはいえ生楽器、歌声など有機的な音源にはコンプはほぼ必須なのが現状ではある。
音量差が大きい音源ソースだと、コンプを強くかけるよりは、ボリュームエンベロープを自分で書いていったほうが自然になることが多い。いわゆる手コンプである。それ専用のプラグインもあるので活用しよう。 ある帯域の音量が上がりすぎたときだけ音量をへこませる「ダイナミックEQ」もコンプの代替としてかなり便利だ。
コンプレッサーはいろんなことができるが、内部的にはコンプでありつつも、目的によって別の名前がついていることが多い。たとえば歯擦音を消す「ディエッサー」や音のアタックやリリースを調整する「トランジェントシェイパー」などである。目的が決まっているならそれ専用のプラグインを使ったほうが圧倒的に良い。
コンプの別の使い道、バスコンプ(グルーコンプ)
とくにMIXで重宝するのが「バスコンプ(Bus Comp)」である。これはプラグイン名ではなく手段の名前で、バスに複数のトラックをひとつにまとめたうえで、軽めにコンプをかけることで、音に一体感が生まれることである。糊(Glue)のように複数のトラックをくっつけるという意味で別名「グルーコンプ(Glue Comp)」ともいう。
そもそもコンプは音量を均すプラグインとして便利であるが、反面、音に閉塞感が出る、楽器の分離感が失われる、といった欠点がある。バスコンプはこれを逆手にとり、個別に鳴っている楽器のまとまりを良くする目的で使うものだ。
ミックスバランスの取り方
いきなりジャストなボリュームを取るのは難しい。そこで…
まず、ボリュームをゼロにする。
ボリュームを上げ、「最低限これ以上は欲しい」と感じるレベルに合わせ、そこのメモリを覚えておく。
少しずつゆっくり上げていって、「これ以上はでかすぎる」と感じるレベルまで上げる。
ボリュームを落とし、「これ以下は小さすぎる」と感じるレベルに合わせる。
何度か繰り返して、最終的に「ちいさすぎ」と「でかすぎ」の真ん中にレベルをあわせる。