2014年09月号 Note Anytimeで書類に捺印する
キーボードに自由を
iOS8でサードパーティー製のキーボードが使えるようになる、とWWDCでAppleから発表された。ブラボー!!
現在、iPhone/iPadで文字を入力するには、Appleが提供しているiOS7標準の文字入力環境(IME)を利用する。日本語入力の場合、英語配列のキーボードでローマ字入力するか、テンキーによるフリック入力かの二者択一。Apple以外がIMEを提供することはできない。
それがiOS8で可能になる。iPadとiPhoneの使い勝手を大きく改善し、利用者層を広げることにもつながる、エポックメイキングな発表である。
iOS7標準の日本語入力環境のうち、ローマ字入力よりフリック入力の方が効率的なのは明らか。基本的に1音1ストロークで入力できる。ただしiPadの場合、フリック入力キーボードが左右に分割されるため、入力中に視点の移動が大きい。立ったまま片手で入力しているときは、頻繁にその手を左右に動かす必要もあって、なかなか最高の入力環境とは言いにくい。
かな漢字変換についても、標準のIMEが出す変換候補は、お世辞にも賢いとは言えない。MacやPCの場合、長年にわたって各社がIMEを提供し、その競争によってクオリティーが向上してきた。iOSも早くそのような歴史を開始してほしい。
いまこの原稿はiPad Airで「ATOK Pad」というアプリを使って書いている。純正のキーボードではなく、このアプリ固有の特別なフリック入力キーボードが大変使いやすい。キーボードが1か所にまとまっているから、手や視点の左右移動がまったくないし、フリック入力に対して瞬時に画面表示が反応する。短文はもちろん、長文を高速で書き続けるのも快速である。
もし、すべてのアプリでこの入力環境を使えたら素晴らしい。iOS7までは標準以外のIMEが認められていないから実現できなかったことが、iOS8からは可能になる、というのだ。ありがたい。
Appleの発表に呼応して、ATOK Padを開発するジャストシステムは、iOS8向けのATOKの開発を「前向き」に検討するとコメントしたと伝えられている。1か所にまとまって入力しやすく、反応が速くて高効率なATOK Pad状のフリック入力キーボードが、すべてのアプリで使える日が来るかもしれない。楽しみだ。
真骨頂は手書き入力にあり
学校や企業の業務において、iPadが真にiPadらしいのは、紙の書類の代わりとして使う用途だ。会議では依然として大量の書類が配布されるし、研究会などではレジュメと称して多くの資料が紙で配られる。
会議や研究会から研究室に戻った私は、その紙をScanSnapでスキャンしてEvernoteに保存し、紙は廃棄する。そのたびに心が痛む。紙の無駄を繰り返すワークフローを根本的に改めたいと思っている。
勤務する大学では、状況が変わってきている。2年ほど前から私からの提案もあってサイボウズLiveなどクラウドが活用されるようになり、紙で資料が配布される会議はだいぶ減った。
PDFを配布する方法はいろいろあるが、大切なのは会議の場で、そのPDFを従来の紙と遜色ない程度に自由に閲覧し、自在に書き込めることである。そのアプリとして、MetaMoJi製のNote Anytimeが使われている。手書きアプリはたくさんあるが、ユーザーの筆跡に忠実な文字が書けるという点において抜きん出ており、自分らしい文字が書けるため、使っていて気持ちがいい。そして大変優秀な手書き文字認識機能「mazec」によって、手書きした漢字かな交じりのフレーズを的確なフォント文字として書き込むことができる。
このmazecこそ、すべてのアプリで使いたいIMEの真打ち。完全に普通の手書き文字を書くだけで、テキスト入力ができるからである。
MetaMoJi社はiOS8の発表後、プレスリリースを出して、正式に、iOS8に対応した手書き日本語入力「mazec」をIMEとして提供する意向を表明した。Note Anytimeというアプリの中だけでなく、すべてのアプリでこれが使えるようになるのだ。これでとうとうiPadが本当の「文房具」になる。
いままでのデジタルデバイスでは、初心者が各種キーボード入力に慣れる必要があったり、手書き文字認識ができるとしてもマス目に書く必要があった。mazecなら、普通の紙に文字を書くのと同様の作法で文字を手書きでき、さらにその手書き文字を即座にテキストに変換できる。デジタルデバイスに慣れた人でも、片手でさらさらと手書きしてテキスト入力できれば、iPadを使うシーンが増えるだろう。
印影を書類に張り込む
こうしてデジタル書類が一般化していくと、旧来の業務慣行に合わせる必要が生じる。その最たるものが印鑑である。書類の作成から提出まですべてがデジタルなワークフローになったのに、押印が必要、という理由だけでいったん紙に印刷して押印し、またスキャンして送付する、というのはなんとも本末転倒である。実印や銀行印といった重要な法的効力のある印鑑は別だが、日常業務で提出する書類とか稟議書に押す認印はNote Anytimeに読み込んでしまえばいい。
まず、白い紙に印鑑を押してスキャンする。そのJPEGファイルをMacのプレビューで開き、「編集ツールバー」を表示したら「インスタントアルファ」ツールを選択する。白い部分を塗るようにポインターを動かすと、白い部分のみがきれいに選択されるので、キーボードのdeleteキーを押す。すべての白い部分にこれを繰り返すと、白抜きになった印影が完成する。pngファイルとして保存し、DropboxやEvernoteなどを介してiPadへ転送。そのファイルをNote Anytimeで開いて「アイテム」に登録すれば準備完了。印鑑に限らず各種のスタンプ類もスキャンして登録しておけば便利だ。
あとは、押印が必要な書式のPDFをNote Anytimeで開き、「+」をタップして「アイテムを追加」を選択し、「マイアイテム」にあるその印影を選ぶと書類に張り込まれる。文字を書き込む部分は、手書きで書いて自分の筆跡を残すのもいいし、mazecを使ってテキストに変換して書き込んでもいい。
完成した書類はEvernoteに送り、共有リンクを生成して先方に送付。これですべてのワークフローをiPadだけで完結できる。完全デジタル書類時代の到来だ。