2014年07月号 思考と血行
知的生産のための歩行
歩くとアイディアが浮かぶ。資料を読んだり思考の断片を書いたりして考えるネタを頭に仕込んだあとに歩くことで、そのネタが熟成され、すーっと考えがまとまったりする。歩くと血行がよくなって、脳に血液が回るからだろう。
だから、というわけではないが、私はよく歩く。吉祥寺と三鷹の中間地点にある成蹊大学から2駅隣の荻窪のラーメン屋まで行くにも、歩く。約4.5km、45分。
写真を撮ったり信号で止まったりしながらではあるが時速約6km。計測すると1分間に140〜150歩のテンポで歩いている。
いろいろな歩数計を使ってきた。中には、東海道五十三次を進む歩数計とか、ポケモンを育てる歩数計といった面白グッズもある。でも身に付け忘れて出かけたり、服と一緒に洗濯してしまったり、どこかで落としたりといった事故によって、なかなか1つを長期間使うことができない。五十三次も京都にはたどり着けなかった。
iPhone時代になってからはアプリをいくつも試した。いいアプリでも結局バッテリーの消耗がネックとなる。
最近、身に付けるタイプのデバイスが相次いで発売されている。非常に興味があるのだが、腕時計も指輪もしない敏感肌(?)の私には、直接素肌に触れるデバイスを長期間使えるはずがない。
そこで見つけたのが「Fitbit One」。デバイス自体は小さくて軽量。48×19.3×9.65 mmで、8g。ベルトや下着に付けていることを忘れていられるサイズだ。
2月1日に使い始めた当初はベルトに装着していたため、付け忘れて出かける日があった。そこで今では、薄くて存在感がほとんどないabrSus製「薄いマネークリップ」に挟んでいる。これなら持って出るのを忘れることはないし、間違って洗濯してしまうことも防げる。Fitbit Oneのクリップが樹脂製で滑らないので、はずれたり落としてしまうことはまずないだろう。
バッテリーはUSB充電で、1回充電すると3週間ほどもつ。Fitbit One単体でも歩数、距離、消費カロリー、登った階数、そして時計が表示されるのがいい。
iPhoneとBluetoothで連携して、記録が専用アプリで自動的に保存される。今日、どのくらい歩いたか、昨日以前はどうか、簡単に見ることができる。
歩数が自動的に記録され、それを頻繁に目にすることで、「今日は歩き足りないからここから歩いて帰ろうか」という気持ちも生じやすい。特にFitbit Oneによる意識の変化として最も大きいのは、階段を積極的に使うようになったことである。
従来は階段を昇ったとしても、お寺の石段でもない限り、その段数は意識しなかった。Fitbit Oneは、段数ではなく「階数」が明示される。確かに「100段昇った」というより「6階分昇った」というほうが高さを認識しやすい。
おかげで、急いでいないときは、自分の研究室がある建物を1階から12階まで歩いて往復するようになった。地下鉄でもエスカレーターを使わなくなったところ、乗り換えなどがあると、1日で30〜40階分くらい、簡単に昇っている。
これらの記録は、fitbit.comで記録され、履歴を見ることができる。そしてときどき、累積の歩行距離とか階数を通知するメールが届く。これが結構うれしい。
4月の頭に、「スカイダイバーバッジ」が届いた。使い始めて2か月で1000階分、昇ったとのこと。次はさらに1000階昇ったら通知が来るらしい。このようにマイルストーンを知らせてくれると、モチベーションも向上する。
靴はビブラムファイブフィンガーズ
こうして日々、1万歩以上軽快に歩くためには、靴が大切。「ビブラムファイブフィンガーズ」を履いている。元々、ヨット用に開発された5本指靴だが、その裸足に近いフィット感と絶大な効果から、ランニング、ウォーキング、トレイルランニング、各種トレーニング、フィットネスそして登山まで、広く使われるようになった。
私も2009年からヨットで使ってきたが、モデルや色が大幅に充実したため、2011年の9月から日常生活のすべてにこの靴を使うようになった。これこそ理想の履物。あまりに快適で他の靴はもう履くことはない。スーツでもビブラム。冠婚葬祭もビブラム。持っていた革靴やビーチサンダルを捨ててしまった。
そこまで気に入った理由は、血行がよくなったおかげで、みるみる体調がよくなったからである。中でも、医者に治らないと言われていた23年間来の不整脈がきれいになくなったのが最大の効果。また前シーズンまで必ずかかっていたインフルエンザに罹らず、風邪ひとつひかない。自宅で家族が何人もインフルエンザで寝込んでいても、自分は鼻水ひとつ出ない。また、以前はひどかった花粉症もぴったり止んだ。血行が改善して体温が上がり、免疫系が強くなったのだろう。
その他、足がむくまない、足が臭くない、ガサガサだった足の裏が赤ちゃんのように柔らかくスベスベ、といった変化がある。
普通の靴で歩いたり走るとき、踵から着地する。しかし誰しも裸足では痛くて踵から着地などできない。土踏まずより前半の「前足部(フォアフット)」で着地する。裸足のときの自然な歩き方、走り方をできる靴がビブラムファイブフィンガーズである。
前足部で着地すると、土踏まずのアーチがクッションとなり、着地の瞬間の衝撃を吸収する。足首から先のすべての骨格と筋肉はサスペンションなのだ。踵着地で走っている動物などいない。
裸足、あるいはビブラムファイブフィンガーズを履いて一歩一歩ステップを踏むたびに、土踏まずのアーチを支えるすべての細かい筋肉が活躍する。ふくらはぎなど脚部の筋肉と同時にキュッ、キュッと収縮し、いわゆる「ミルキング・アクション」が起きる。すると血液が重力に逆らって上半身に送り返される。心臓を助け、循環を促す。俗に「足は第二の心臓」といわれる機能が発揮されるのだ。
着地するとき、足の指で地面をつかむのではない。むしろ指は自然と上向きに反っている。反ることによって土踏まずを通る腱にテンションをかけ、着地の衝撃を吸収するのだ。感覚的には足の裏がタイヤの周囲のように丸くなって、地面を転がっていく。路面抵抗が小さく、摩擦も小さい。実際、靴の中で足が動かないから、どんなに歩いても靴擦れができない。
普通の靴より快適に歩けて、血行も改善。歩くのが楽しくなる。脳の血液も循環して、思索も進むのだ。