2014年06月号 一括入力、一発変換
日本語入力は多彩
日本語入力の精度は、日本語で文章を書くすべての作業の効率を左右する。論文もメールもチャットもSNSも。精度が高ければ、よりスムーズに文章を書ける。
言葉という極めて人間的なアナログ表現をデジタル化するプロセスを効率化したい。Macの歴史は、日本語入力の精度向上の歴史でもある。
タイピングを初めとして、OCR(光学式文字認識)、手書き文字認識、そして音声入力。状況に応じてそれらを使い分けられる幸せな時代。どうしたらMacの性能を生かして言葉を円滑にデジタル化できるか。使い方の工夫もまた楽しい。
1990年代前半には「MacReader Plus」という25万円のソフトによって、実用的な精度で活字のOCRが実現していた。現在では、PFUの「ScanSnap」でスキャンした書類は即座にOCRがかかり、検索可能なPDFになるし、Evernoteでは手書き文字までも認識される。またiPhone/iPadアプリの「Note Anytime」なら、自分が書いた文字をリアルタイムにフォントに変換でき、完全な手書き入力が実現している。
一方、Mac/iPhone/iPadの音声入力も十分実用的だ。特にイヤフォンマイクなどを使ってきれいに音声を拾えるように工夫すると精度が増し、タイプするよりも速い。あとは誤認識の補正がしやすくなれば、格段に実用性が上がるはずである。
そういった技術の進化に比べると、タイピングによる日本語入力は昔からあまり変わっていない。23年間ローマ字入力していた私が2011年に親指シフト(Nicola配列)に転向したのも、日本語入力を効率化したかったからである。
親指シフトのおかげでタイピングによる日本語の入力がずいぶんと楽になり、高速化した。たとえローマ字入力の7割程度のゆっくりした速度で打鍵しても、1.2倍ほど速く入力できる。親指シフトに慣れればその速度はローマ字入力の2倍近い。
しかし、入力方法を替えても、入力した後にかな漢字交じりの表記に変換するのはMacが頼り。日本語入力プログラムの性能をうまく引き出し、変換精度を上げることが効率化につながる。
その工夫として、長年、句読点変換をONにしていた。文章を変換せずに平仮名のまま入力していき、句読点を打った瞬間、自動的にかな漢字交じり文に変換される。変換キーを押す必要がない。「変換」を意識せずに言葉を書きつづれるのが好ましい。
現在、MacのOS Xはバージョン10.9。2005年、バージョン10.4のころ、Mac標準の日本語入力プログラム「ことえり」が劇的に進化し、変換精度が飛躍的に向上した。それまで、細かく文節で区切って変換をしていたが、できるだけ長く平仮名のまま入力してから一気に変換する方が的確な結果を得られるようになったのだ。かなで入力された未変換部分全体をMacが解釈し、文章の前後関係から判断して、より的確な漢字へと変換する。短く区切って変換を繰り返していると、判断要素が乏しいため、間違いが多くなってしまう。
その性能を生かすためには句読点変換をONにする方がいい。入力中にスペースキーを押して強制的に変換してしまうのではなく、文意がまとまる句読点まで来て初めて変換するためである。実際そのようにすると、ほとんど修正を必要としないくらい正確に変換される。ことえりは賢い。
一括入力、一発変換が高効率
ことえりと同様、物書堂の「かわせみ2」も、長く入力してから変換した方が精度が高い。最初のバージョン「かわせみ」に続き、昨年11月28日に発売された「かわせみ2」で、その性能は向上した。
しばらくかわせみ2を使った結果、その変換精度は十分信頼できる。そこで句読点変換を切ってみることにした。句読点変換をONにしていると、「。」(句点)でも「、」(読点)でも変換される。しかし、もし本当により長く入力してから変換する方が高効率であるならば、「、」では変換せず「。」まで入力し、一文が完了した時点で初めて変換する方が、さらに高い精度で変換結果を得られるのではないか。
早速実験。まず、句読点変換を完全にOFFにして一文が終わった時点で変換キーを押してみたところ、変換精度は申し分ない。普通の文章ならほぼ誤変換ゼロ。試しに、一文終わっても変換せず、平仮名のまま二文書いてからまとめて変換してみたところ、完璧に変換された。
そこで次に句読点変換をONにし、「。」「?」「!」では変換し「、」では変換しないように設定した。ことえりでは句読点すべてでのONとOFFのみ可能だが、「かわせみ2」はこのような細かい設定ができる。
とても具合がいい。変換キーを押すよりも、一文が終了した時点で自動的に変換される方が、「変換」を意識しないですむ。変換キーを打たない分、打鍵数も1回少ない。
頭に浮かんだ文章をダーーッと平仮名のまま入力してしまってから「。」で一息つく。即座に漢字かな交じりの文章が現れる。かなで表記した「音」が「文字」に変わる瞬間だ。ほぼ正確。間違いはほとんどない。
もし補正が必要なら、control+FキーとSキーで注目文節を左右に移動したり、control+IキーとOキーで注目文節を縮小、拡大するのがいい。カーソルキーを使うには手を大きく移動することになるが、左手小指でcontrolキーを押しながら他のキーを操作するなら手をホームポジションに置いたまま、文字列を修正できる。
同様に、変換を修正するにはスペースキーよりcontrol+Nキー、確定はreturnキーよりcontrol+Mキーを使う。文字の操作はすべて共通にcontrolキーを駆使するのである。
一括入力、一発変換。この方式だと、文章を考えながら書いている途中で、変換の確認のために思考が途切れることがない。1文ごとに、書いた文の見直しと変換結果の確認を同時に行える。ローマ字入力でもこの一発変換の快感は味わえるが、親指シフトだと顕著だ。
親指シフトでは頭に浮かんだ日本語の音をそのまま打鍵していく。1音が平仮名1打鍵に、1打鍵が平仮名1文字に対応し、そのときに耳に届くキーの打鍵音も1音。タイピングにおける「言行一致」が実現している。しゃべる音がそのまま平仮名となって現れるから、頭脳から直接画面に文字が出現する感覚である。
従って、平仮名のまま入力し続けるのはむしろ自然。タイピングが速いので、入力の途中で変換したりその結果を確認するより、一気に一文を書ききってから変換結果を目にする方が、入力リズムが一定する。楽に書いて、時間と知力を推敲に注ぐのだ。