2014年02月号 RICOH THETAで写真観が変わる
シータが街にやってきた
'13年11月8日、㈱リコーから「RICOHTHETA《シータ》」が国内でも発売された。9月5日にベルリンで発表され、その先進性に驚喜して、すぐにでも買いたいと思ったが、仏独英米では10月にオンライン販売が始まったものの日本では未発売。いまかいまかと待ち望み、10月末の予約開始を経て、ようやく購入できるようになったのだ。発売日の朝、ヨドバシカメラ吉祥寺店の開店直後にTHETAを購入した。
上下左右360度をワンショットで一挙に撮影できる全天球型カメラである。その面白さは想像を超えている。使えば使うほど、新しい面白さに出会う。発想を豊かにする格好の道具だ。撮影者の工夫や創造性を発揮できる表現ツールである。
リコーといえばフィルムカメラの時代からデジタルカメラまでの長年にわたって、名機「GR」シリーズを開発、生産し続けているカメラメーカーだ。私の日常的な写真はほぼすべてGRで撮影しているといっても過言ではない。GRシリーズが存在しなかったら私の人生は異なっていただろう。
GRシリーズの特徴は、28mm相当の広い画角を捉える高性能レンズにある。まだ、28mmという画角が一般的ではなかった頃から、一貫して28mmの広角にこだわってカメラを生産してきた。いまでは広角レンズをつけたカメラも増えてきたが、リコーの28mmにはクセや歪曲がなく、まっすぐな気持ちのいい描写を得られる。難しいとされる広角レンズの性能を上げる技術やノウハウの蓄積が如実に現れているのだ。
複写機とともに培われた同社の光学技術はプロジェクターにも応用されている。映写面からたった11.7cmの超至近投影が可能な超短焦点プロジェクターである。
それを可能にしているのが超短焦点レンズだ。至近距離から投影しても歪みのない、すっきりとした画像を写し出す。
そういった高性能な超広角レンズを作る光学技術を有し、GRという至高のカメラを企画して成長させてきたリコーだからこそ、この斬新なカメラが発表されたとき、確信したのだ。すごいカメラに違いないと。
実際に使ってみると、THETAは予想以上に素晴らしいカメラである。撮影する被写体を探す自分の脳内が、今までとは全く異なる働き方をしているのだ。目の前、あるいはカメラの前の対象を写す、という従来の写真とは違って、前も後ろも上も下も、周囲全部が写し込まれる。常用してきたGRの28mmというかなり広い画角と比べても、THETAで撮影するときに気を配る範囲は、その何十倍かに及ぶ。
全方位に対する観察力に「開眼」するのだ。THETAを使って最初に味わう面白さである。写真観が根底から変わるのだ。
一般の写真は、三次元の被写体を二次元に写す。THETAは三次元を球体の内側に投影する。プラネタリウムのような感覚だ。その撮影を繰り返すと、まさに「異次元」の発想力が鍛えられる。
本体のシャッターボタンを押して撮影する場合、自分も写るのが非常に大きなメリットだ。従来のカメラではあまりなかった経験である。撮影者が同時に被写体であり、モデルなのだ。ニッコリ笑って写りたい。手鏡に自分を映すような感覚が新鮮だ。
その手鏡を大勢で囲んで撮影する集合写真もまた楽しい。輪になった周りのみんなでTHETAを見ながら撮影すると、和気あいあいとした雰囲気まで写し込まれる。
iPhoneとの親和性が高い
周囲全体を写すTHETAは、モニターを必要としない。その分、後で画像を確かめるまでのワクワク感が楽しい。
一方、iPhoneを併用すると撮影直後に全天球画像がiPhoneに転送されて閲覧できる。準備はTHETAのWi-Fiボタンを押してオンにし、iPhoneをTHETAに接続するだけ。専用アプリ「THETA」を起動すると、iPhoneからリモートでTHETAのシャッター切ることができる。その場合、iPhoneのGPSが用いられて、撮影画像に位置情報が書き込まれるのもありがたい。
テーブルの上などにTHETAを立てて置き、iPhoneでシャッターを切れば、自分の手が写り込まない。柱や机の陰に隠れて撮影すれば、自分が写らない写真も撮れる。
またTHETA単体で撮影した写真を後からiPhoneに転送するのも簡単。そこからTHETAの専用サイト、Facebook、Twitter、Tumblrにアップロードできる。THETAはiPhoneとの親和性が高いのだ。
iPhone上で撮影した画像をぐりぐり回したりズームイン/アウトするのが面白い。同アプリはiPadでも機能する。iPadの大画面でそれをやると迫力満点。写真の中の別世界を自分の手で回せるのだ。
THETAの充電はUSBケーブルで行う。iPhoneなどの電源アダプターが使えるし、MacのUSBポートに挿してもいい。
Macとつなぐと、一般的なカメラと同様の扱いとなるので、撮影済みの画像をMacに転送できる。イメージキャプチャー、iPhoto、Aperture 3といった写真を取り込む機能のあるアプリならどれでもOK。私は通常の写真にAperture 3を使っているので、iPhotoをTHETA専用にした。
iPhotoに読み込むと、長方形の写真として表示される。全天球型の画像が平面に引き延ばされた形だ。上端と下端が拡大され、地図でいう「メルカトル図法」の上下が縮まった「正距円筒図法」であろうか。
それを「RICOH THETA for Windows(R)/Mac」という不思議な名称の専用アプリで開くと、全天球型に表示されて、Macの画面上でもくるくる回したり、ズームしたりして見ることができる。
滑らかな動きが気持ちいい。トラックパッドでも操作できるし、矢印キーでも上下左右に動かせる。もっともズームアウトすると光景が円形に吸い込まれていく。さながら水晶玉から世界を覗き見るようだ。
当初、iPhotoの環境設定で、「写真の編集」にこの専用アプリを割り当てた。写真を選択して編集ボタンまたはcommand+「E」キーを押せば、このアプリで開かれて便利なのだ。
しかし、これだとiPhotoの編集機能が使えなくなってしまう。そこでmoyashiさんが、「iPhotoTHETAMenuEnabler」を作ってくださった。本当にありがたい。これをMacにインストールすると、iPhotoの編集メニューに「RICOH THETA for Macに送る」という項目が追加される。写真を選択してcommand+control+「T」キーすれば、専用アプリで開かれる。「写真の編集」は元の「iPhotoで編集」に戻した。
と、書いてきたが、THETAの面白さは文字では伝えきれない。ぜひ私のTHETAサイトにある写真を開いて遊んでいただきたい。