2014年01月号 「デジタル黒板」で講義が変わる
shio.icon末尾に「2018年はこう変わった」を追記しました。2018/06/20 09:55:48 黒板をデジタル化
とうとう「デジタル黒板」が実現した。黒板がデジタル化し、プラスαがある。授業や講義、ゼミといった教育現場だけでなく、会議、ブレストから軽い打ち合わせに至るまで、さまざまな共同作業にも適する。「電子黒板」のような高価な専用機器を必要としない。汎用性の高い製品を使って、安価かつ簡単に実現できるのがいい。 Macを使って25年、大学の教壇に立って15年。日々、黒板やホワイトボードを使って講義をしながら、これをデジタル化したいと考え、さまざまな環境や機器を試してきた。
ようやく黒板を超える利便性を備える環境が整ったのが昨年(2012年)9月。試験的に講演等で使い始め、今年(2013年)の秋からは私が担当するすべての講義でそれを使っている。幸い、学生たちからの評判はすこぶる良い。既存の「電子黒板」とは異なるので、「デジタル黒板」と名付けた。
やっていることは単純だ。手元のiPad miniに黒板のような「板書」をすると、まったく同じものが教室前方のプロジェクターや会議室前方の大画面テレビにリアルタイムで投影される。静止画ではなく、筆致がそのまま写し出されるのだ。
もう教室の前に立って「黒板」に直接書く必要がない。場所を拘束されないから、室内を自由に歩き回り、好きな場所で「板書」できる。授業中、生徒や学生たちのノート等を見回りつついわゆる「机間巡視」をしながら、遠隔で「板書」を続けたり、それを指し示しながら話せるのだ。
また会議室であれば、座席に座ったままで、「デジタルホワイトボード」に書くことができる。PDFなどの資料を提示したり、その資料に手書きでコメントを書き加えることもできる。
仕組みは簡単だ。ハードウェアの準備として、プロジェクターや大画面テレビにつないだApple TVを室内のWi-Fiに接続しておく。あとはiPadやiPad miniをそのWi-Fiに接続し、AirPlayでApple TVを選ぶだけでOKだ。
幸い、成蹊大学の各教室にはApple TVを常設していただいた。iPad miniだけ持って教室に行けば「デジタル黒板」を使える超快適な環境だ。
しかし、他の大学や講演会場ではApple TVが常設されていることはまずない。そこで代わりにMacを使う。「Reflector」というアプリをMacに入れて起動すると、Apple TVと同様に機能するので、そのMacをプロジェクターにつなげば、Apple TVと同様に「デジタル黒板」を実現できる。
実はこの方法には大きなメリットがある。OS Xに備わっている画面の白黒反転機能を使うと、通常の「白地に黒文字」画面から「黒地に白文字」にワンタッチで切り替えることができるのだ。これぞまさにデジタル「黒板」である。
方法は簡単。「システム環境設定」→「アクセシビリティ」→「ディスプレイ」を開き、「カラーを反転」にチェックを入れればいい。さらに、「システム環境設定」→「キーボード」→「ショートカット」→「アクセシビリティ」で「カラーを反転」にチェックを入れると、control+option+⌘+「8」キーを押すことで反転できる。プロジェクターやモニターの明るさ、あるいは教室の照明の具合によって、瞬時に切り替えつつ聴衆とともに見比べて、見やすいほうを使うことができる。
手書きアプリの進化
「デジタル黒板」を実践するにはiPad/iPad miniに手書きアプリか必要だ。いろいろなアプリを試したが、㈱MetaMoJi社製のアプリが抜群に使いやすい。昨年からの1年間は同社の「Note Anytime」、そしてこの秋からは「Share Anytime」を使っている。スタイラスペンも同社製の「Su-Pen」がベストだ。
Note Anytime、Share Anytimeが他のアプリより優れている点はいくつもある。そのひとつがレーザーポインター機能だ。写し出している資料や自分で書いた内容を指し示しながら話を進めることができるだ。
他の環境だと、プロジェクターで映写している画像の中で見てほしい箇所を指し示すために、伸縮する棒を使ったり、レーザーポインターを必要とする。Note AnytimeやShare Anytimeならまったく不要。iPadの画面上を指やスタイラスペンで指し示すと、その部分にラインが表示され、徐々に消滅するのだ。ラインの色や太さは自由に変更できる。
また手書き文字認識機能も素晴らしい。手書きの文字をまったくそのまま表示できるのは当然だが、その手書き文字を認識して、フォントの文字に変換してくれる。その際、かなで筆記したものを漢字に変換する候補も出る。私などは講義中に学生が発言した言葉を板書しようとしてその漢字が思い浮かばないことがあるので、この機能が重宝だ。
Note Anytimeは、カリグラフィーペンで美しい欧文を簡単に書けるのも秀逸だ。高校生のときにその美しさに感動して自分で書き始め、結婚式のウェルカムボードの制作依頼などを受けるほど大好きなカリグラフィーを、専用の道具なしにiPadだけで描ける。スティーブ・ジョブズがMacで文字の美しさにこだわる源泉もカリグラフィーだから、この機能はうれしい。
21世紀は全方向講義
さてShare Anytimeのほうは、もっとすごい。学生がiPad/iPad miniを持っていれば、私の板書と同一の内容がそこに表示される。さちにShare Anytimeで学生にも発言権限を設定すれば、彼らが直接その板書に書き込めるのだ。これは革命である。
大学で行われている一般的な講義では、前に立った教員から多数の学生に対して一方的に情報が伝達される。文字通り「義を講ずる」のだ。学生からの発言は望むべくもない。ただただ聴いて書き取るのが学生たちの90分間である。
私はその教え方に、疑問と危機感を抱いていた。長年、YMCAのキャンプで青少年にヨットやカヌー、カヤック、水泳、アーチェリーといった種目を教えてきた経験から、情報伝達型の講義は相手の成長への寄与は少ないと体感してきたからだ。
そこで私は大学で教え始めて以来、自分の考える21世紀型の講義を実践してきた。一方通行でもない、双方向でもない、「全方向型」の講義である。
講義中、私の問いかけに対して学生たちが自発的に発言する。それに刺激を受けた別の学生の発言がまた次の思考を誘発する。学生たち自身が自ら考え、習熟していく場としての講義。Share Anytimeはそれを口頭だけでなく文字でも実現するのだ。
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2018年はこう変わった
もう“講義”とは呼んでおりません。〈授業〉をしております。「義を講ずる」のが講義。情報の一方的伝達。shio.iconのように「全方向」で行うのは「講義」ではなく「授業」。学生たちに「業を授ける」。業(アクティビティ)を行うのは学生たち。shio.iconはコーチ。「法律学は実技科目」。「授業は体育だ!!」と申しております。 “Reflector”より〈Lightning - Digital AVアダプタ - Apple(日本)〉を利用して有線接続した方が安定します。当時はできなかったiOSの画面をそのままHDMIで出力することができるようになったからです。そしてそもそもApple TVを常設していない会場ではWi-Fiを利用すること自体が不安定であることが多いため、“Reflector”を使っていて接続が切れて授業や講演が中断した経験が何度かあります。したがって、安全のため、有線接続を使っております。 iOS標準の〈スマート反転〉機能により、iPhone/iPad自体で画面の白黒反転ができるようになったため、“OS Xに備わっている画面の白黒反転機能”は必要なくなりました。