2012年09月号 controlで操ろう
右手の憂鬱
キーボードの右上にある「delete」キー。いったい一日に何回、これを押しているだろう。
人によって押す指はまちまち。小指、薬指、中指、人差し指──。どの指を使っても、そのたびに右手がホームポジションから離れ、また戻ってくる。できれば文字を打ち間違えたくはないのだが、そううまくはいかない。日々なんども「delete」キーのお世話になってしまう。
「return」キーも同じだ。特にJISキーボードはUSキーボードよりも1列ぶん「return」キーがホームポジションから離れていて遠い。そのためやはり、「return」キーを押すたびに、右手がホームポジションから移動し、戻ってくる。
さらにカーソルを上下左右に移動させる矢印キーはキーボードの右下だ。カーソル移動はもとより、かな漢字変換中に対象の文節を移動したり、変換候補を選んだり、文節の伸縮にも使う。
多くの人は上下キーを中指で、左右キーを人差し指と薬指で操作する。その都度、右手全体をキーボードの右下まで移動させる距離は大きい。
右手は忙しいのだ。まるで反復横跳びでもするかのように、始終、右往左往する。もしこんな無駄な動きをしなくて済むならぜひそうしたい。
そのためにあるのが「control」キーである。右手とは反対側、「A」キーの左隣にある。USキーボードの場合「A」キーの隣は「caps lock」キーだが、「システム環境設定」の「キーボード」パネルで「修飾キー」を押し、「Caps Lockキー」を「Control」に設定すればいい。
「control」キーを押すには左手全体を動かす必要はない。小指をちょっと左にずらすだけ。知らないと使う機会がほとんどないが、使いこなせれば非常に便利なキーなのだ。文字入力の効率が格段に上がる。これで右手の憂鬱を解消しよう。
キー操作の王様
「control」キーの用途は多岐にわたる。「control」キーを押しながらほかのキーを押すことによって、一般的なほとんどのキー操作が可能だ。
懸案の「delete」キー、つまりカーソルの左隣の文字を削除する操作は、「control」+「H」キーだ。逆にカーソルの右隣の文字を削除することもできる。「control」+「D」キーだ。この2つを使えるだけでも、右手が「delete」キーに飛んでいく必要がなくなり、ぐんと楽になる。
次はカーソル移動だ。「control」キーとともに「F」キーを押せばカーソルが右に進む。「forward」(前方)の「F」である。逆は「B」キー。これも「backward」、(後方)の「B」だ。
一方、下への移動は「N」キー、上へは「P」キー。それぞれ「next」(次の)と、「previous」(以前の)の頭文字だ。これはカーソルの移動以外にも使い道が多い。
例えば、ことえりでかな漢字変換するにはスペースキーを押すのが一般的だが、「control」+「N」キーでも可能だ。変換とは「次」の候補を出すことだからだ。もちろん「P」キーで前の候補に戻ることもできる。またSafariの検索窓に検索語を入れたときに表示される候補をたどる際も、同様の操作でOKだ。
ことえりで変換中、対象の文節を左右に移動するには「control」+「B(またはS)」と「F」キーを押す。さらにその文節の長さを「O」キーと「I」キーで伸縮させられる。「out」と「in」の頭文字だろう。キーの位置も、右手の薬指と中指でわかりやすい。こういった合理性が好きだ。
以上を使えれば、文字入力中にキーボード右下の矢印キーまで右手を動かす必要がない。このほかにも「J」キーはひらがな変換、「K」キーはカタカナ変換、「L」キーは全角英字変換、「;」キーは半角英字変換。各文字種変換が、右手のホームポジションにきれいに並んでいる。変換の確定は「M」キーだ。
変換以外でも文章を書いていて便利な操作が多い。「A」キーで段落の冒頭に、「E」キーで段落の末尾に飛べる。「K」キーは、カーソルの右側の文字から段落の末尾までを一気に削除できる。
また、ことえりで単語を辞書登録するには「control」+「shift」+「N」キー。私はこれを頻繁に使ってどんどん単語登録している。左手小指を寝かせるようにしてふたつのキーを同時に押すのがコツだ。
さらにカンペキに
これらの「control」キーを使った操作は、ほとんどのアプリで可能。そのような一貫性もUNIXを基盤に持つマックのよさだろう。
ただし「Microsoft Word」や「同 Excel」といったアプリは例外だ。以上のような「control」キーの操作をすると、まったく異なる挙動を示すから、面食らってしまう。
そこで「KeyRemap4MacBook」をマックにインストールし、環境設定で「Emacs Mode」を開き、1、3、8番目にチェックを入れている。これで「Microsoft Office」の各アプリでも「H」キーと「D」キーが使えるようになるし、どのアプリでも「control」+「M」キーが「return」キーとまったく同様に機能する。完全に、ホームポジションだけでテキストを扱えるようになるのだ。
以上のように「control」キーを使いこなすには大前提がある。タイピング中、両手指をホームポジションに常時置くことだ。それを基礎としてキーボードを一切見ずに打つタッチタイピングは基本中の基本である。
自己流の癖がついてしまっている人、タイピング中にキーボードを見てしまう人もあきらめることはない。これを機会にタイピングのスタイルを見直してみよう。
準備は簡単。左右の人差し指を「F」キーと「J」キーに置き、中指から小指もその隣のキーから順に置くだけだ。これが両手指のホームポジションである。
各キーの位置を確認するためには、マックの入力メニューで「キーボードビューアを表示」を選ぼう。常時、キー配列表を画面に表示できる。また配列表をプリントしてモニターのフチに張っておいてもいい。
ともかく一切キーボードを見ることなくタイピングする訓練を始めよう。最初はゆっくりだし、キー配列表を頻繁に見ることになる。それでいいのだ。ゆっくり確実に打っていくのが上達の早道である。
キー配列表はどんなに見てもいいからキーボードは絶対に見ない。それを肝に銘じて練習すれば、1週間ほどで指がキー配列を覚え始める。つらいのはその1週間だけ。2週間も続けると心地よく打てるようになってくるはずだ。もしどうしてもキーボードをチラ見してしまうのであれば両手の上にタオルをかけておけばいい。
また、せっかくゼロからタッチタイピングを始めるなら、「親指シフト」にトライするにも絶好のチャンスだ。本連載の7月号に詳細を解説したのでぜひご参照いただきたい。
ローマ字入力でも親指シフトでも、タッチタイピングができるようになれば「control」キーの活用が絶大な威力を発揮する。右手の無駄な動きをなくして、マックを華麗に操ろうではないか。