ドストエフスキーの『空想家』タイプ
『感傷的ロマン』及び『ある夢想家の思い出より』という二つのサブタイトルをもつ『白夜』は、一八四八年『祖国雑誌』十二月号に発表された。これは固苦しい説教者と誤解されやすい。ドストエフスキー(一八ニ一〜一八八一年)が、いかにデリケートな愛情をもった叙情詩人であったかを、われわれの前に余すところなく示してくれる愛すべき小品であり、そのテーマは彼が終始愛してやまなかった『空想家』の生活記録である。 (中略)
『女主人』(一八四七年)にその原型が示されたドストエフスキーの『空想家』タイプは、そのシベリア流刑生活によってさらに磨きをかけられ、『地下生活者の手記』(『地下室の手記』)(一八六六年)を経て、その甘い感傷的空想は棄て去られ、ついに『罪と罰』のラスコーリニコフにいたって、その頂点に達する。だが『白夜』ではそのセンチメンタリズムは主要なモチーフとなり、全篇に甘いロマンの香りを漂わせ、われわれを白夜のペテルブルクの河岸通りに立たせるのである。 ドストエフスキー著、小沼文彦訳、『白夜』、角川文庫、訳者解説より