統計による差別に基づいた近代国民国家の統治
2022-01-30yuiseki.icon
前提
統計による差別(統計的差別)というのは最近話題の言葉だったりします
統計的差別 - Wikipedia
IT界隈でも統計に基づいたテクノロジーが台頭してきている一方で、AI倫理とか公平性配慮型機械学習とかいった形で話題になっています
言いたいこと
統計とは歴史的に偏見や差別を含んでいるものである
一方で、現代では統計が偏見や差別を解消するために活かされる場面があるのも事実である
なぜそう考えているのか
統計とは、社会のあるがままのすべてを連続的(=アナログ)に歪み無く正確に映し出すための道具ではなく、ランダムに抽出したサンプルから特定の目的に基づいて属性を離散的(=デジタル)に振り分けるための道具である
つまり、本質的に、観測する次元の解像度を下げることによって単純化している
どの次元を選び、どの程度までの解像度にするのかは、特定の主観的目的に基づいている
統計という概念は、おおよそ近代の国民国家の誕生と時を同じくして、国家の統治という目的のために発展してきたと言える
近代国家では、各種政策を行うために現在人口の確認、将来人口の推測、国内の労働力の把握、国民の教育状況などを知る必要があるという認識が広まっていった
国勢調査 - Wikipedia
年齢と、死亡数と、性別を男女に二分して計測することで、将来における国家の人口と労働力の変動を予測可能になる
日本において明治時代になって戸籍という概念が導入されたのはこのような近代的な国家統治のためであった
江戸時代においては異性装や性別移行も同性婚もあたりまえのように行われていた
「性別:その他」だったり「性指向:同性」という人間は、人口変動に大きな影響をもたらさないので、国勢調査においては無視してよかった
いまでも無視されている
近代の国民国家は、他の国民国家との厳しい競争下にあった
産業資本主義の資源収奪要請による帝国主義、植民地主義
その結果が国家総力戦としての世界大戦である
国民国家における主権は国民にある
よって国民も戦争に参加することがあたりまえになった
国家総力戦とは消耗戦である
備蓄した戦力だけではなく、戦争の最中にもどんどん武器を製造し前線に送り込む能力で勝敗が左右された
よって、国民国家にとって、労働人口の増加は極めて深刻な課題だった
このような背景から、近代の国民国家においてはマイノリティの存在は重要でもなかったし積極的に無視されていた
現代の民主主義国家は、フーコーが指摘しているように、暴力による統治ではなく、福祉による統治がなされている
ただし、人口をコントロールすることにはいまだに強く主眼が置かれている
ポリティカル・コレクトネスやインクルーシブといった考え方も、ミシェル・フーコーが言う生権力が背景にあるのだろう
国家の統治のための枠組みが、人々の倫理や規範にまで浸透している。統治大成功
近代とは対象的に、現代の国家はマイノリティを無視できなくなりつつあり、マイノリティの存在に日を当てるために統計が使われるようになってきている
しかし、統計の本質は最初に述べたように、社会を単純化するための道具であり、社会のあるがままのすべてを複雑なまま伝えるためには、何らかの工夫が必要であると考える
現代における保守主義とは、近代の呪いである
他の国民国家との厳しい競争をいまだに前提としていて、それに寄与しようとし、寄与しない・できない人間を軽視し、排除しようとしている
保守主義の背景には、国家の繁栄と他国の打倒という目的のために、統計に基づいて形成された、合理的に単純化された社会像がある
参考文献
政治算術
死亡表に関する自然的および政治的諸観察
女装と日本人 (講談社現代新書) | 三橋 順子 |本 | 通販 | Amazon
新書700近代の呪い (平凡社新書) | 渡辺 京二 |本 | 通販 | Amazon
性の歴史 1 知への意志 | ミシェル・フーコー, 渡辺 守章, Michel Foucault |本 | 通販 | Amazon
偶然を飼いならす―統計学と第二次科学革命 | イアン・ハッキング, 英樹, 石原, 園江, 重田 |本 | 通販 | Amazon
確率の出現 | イアン・ハッキング, 広田 すみれ, 森元 良太 |本 | 通販 | Amazon
日本がバカだから戦争に負けた 角川書店と教養の運命 (星海社新書) | 大塚 英志 |本 | 通販 | Amazon