逆転世界
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1974 年発表
入手難度は低め。
プリーストの「逆転」インタビュー
三一歳。SF作家としての代表作となった長編
概要
SF作家としてのプリーストの代表作は、間違いなくこの『逆転世界』だろう。
オールディス『寄港地のない船』に代表される「世代宇宙船もの」の発展的解消を試み、ほとんど完全に成功した作品だ。
あらすじ
物語の前半で舞台となるのは、ある理由からレール上を走り続けることを宿命づけられた移動都市。都市に生まれ育った少年は、ちょうど『進撃の巨人』序盤の壁外調査のように、成人後はじめて外へと出てゆく。そしていくつかの奇妙な現象(太陽の異常なふるまいや、父親の急速な老化)に直面し、ついには彼が生きてきた異形の世界の「真実」を知るに至る。
このとき示されるビジョンひとつをとっても、『逆転世界』はジャンルSFの平均点を越えている。だがプリーストは世界設定そのものの面白さに甘んじない。後半戦でこの物語は認識論SFに一転する。都市に絶えざる移動を要請してきた信念は、ある特殊な認知特性によって生み出された誤ったものではないという疑念が示されるのだ。
読みどころなど
互いに否定し合うふたつの世界観。『逆転世界』はその両方を同時に読者に植え付ける。併存が許されないはずの対立仮説が、いずれも覆し難く生々しい実感をもって心に刻まれる。
強烈な思い込みや先入観に対して、われわれヒトはあまりにも無力だ。けれど『逆転世界』は、この暴力的とも言える思い込みの力を使って、わたしたちに単一のオブセッションを越えた場所にある感覚を教えてくれる。
この感覚を、政治的、倫理的な問題意識と関連づけて考えることだってとうぜん可能だろう。
たとえばいずれもが一定の妥当性と弱点を持つ政治的主張を目の前にしたとき、わたしたちはそのいずれを選択すべきなのだろうか? 安易かつ経路依存的に一方を選んでしまい、そしてその偏見からけして抜け出すことのできない私たちの愚かさと悲哀を、この作品は痛烈に皮肉り、慰撫しているようにも思えるのだ。