伝授者
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サンリオSF文庫。
訳者は鈴木博。
入手難度は高め。
二七歳。堅牢だが前半部のフックに難ありの第一長編
あらすじなど
商業誌上での短編発表という形で作品を発表していたプリーストが、デビューから四年を経て発表した初めての長編が本作だ。
物語は主人公である生化学者が南極の研究所において、動物の認知機能をかき乱すドラッグを開発するシーンからはじまる。彼は謎めいた勢力によってブラジル奥地へと連れ去られ、プリースト作品におなじみの不思議なフィールドや、奇妙な力を持った建築へと迷い込む。そして唐突に、自らの研究が引き起こした帰結に直面することになる。
フックの弱さについて
弱点から書くのはアンフェアなようにも思うが、後年の著作と比べて情報提示の手つきにぎこちなさが残っている作品だ。プリースト作品の特徴として、魅惑的な謎や異性を早い段階で出しておくことで食いつきをよくする常套手段の効果的な適用があるが、本作ではこうしたフックがほとんど出てこないままに展開が重ねられる。そのため読者はあるパートにさしかかるまでのあいだ、主人公とともに困惑し続けることになる。訳文が少々読みづらいことも若干の苦行感を演出する。
このストレスを必要と見るか不要と見るかは読者次第だろう。おあずけを食うからこそ種明かしに興味を向けられるのだという立場には一理があるし、そもそもある種のジャンルSFというのはこういうものだという意見にも頷ける。生硬な文体とシンプルな(言い換えると多義性の薄い)構成によって、後年の作品からは失われた厳密な詩情が味わえる。
その他
二次大戦を経て世界の中心から脱落してゆくイギリスとイングランド人の悲哀が、注意深い解体と再構築を経てSFの形にまとめ上げられている部分も読みどころ。
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訳文は微妙(生硬)
まあイングランド人の明晰な諧謔を書き下すのにこういう文体は悪くないが。
解説はグッド