イグジステンズ
https://gyazo.com/c94ddb1e6a65b3e632ab3a5c0c3a1517
入手難度はやや高め。
五六歳。クローネンバーグ監督作品の小説化
概要とあらすじ
話題作となった同名映画の小説化作品である。
題材となっているのは没入型VRゲーム。主人公は新作発表会に現れたテロリストから天才クリエイターを救い出し、彼女と奇妙な逃避行を繰り広げる。
読みどころ
映画やプリーストに対して特に思い入れがある読者以外は、読む必要がない作品であると評者は思う。訳者である柳下毅一郎が書いたあとがきも、なんだかあまりにやる気がない。映画化タイアップで書くだけ書いてみました、訳すだけ訳してみました。というやっつけ企画にどうしても見えてしまうのだ。
映像的には素晴らしかったのであろうガジェット(生々しい肉の部品で作られた銃や没入デバイス)やシーンのひとつひとつは、文章によって上っ面をなぞられて味気ないものとなっている。説明があまりうまくない語り手から、昨日見た夢の話を聞いているかのような読書体験だ。
思うにプリーストが好んで用いるガジェットとクローネンバーグの映像体験は、相性が良いようでいてその根本において相容れない部分を含んでいるのではないか。プリースト体験が催す幻惑の感覚は、根源的な生理的嫌悪感よりもむしろ抽象的な観念の平衡覚のようなものが揺さぶられることによって生じる。どれだけ言葉を尽くしてクローネンバーグ作品の異物感だけを叙述しても、その努力は小説の全体に奉仕しなかった。
こういう仕事、つまり「自らのキャリアをぎりぎり傷つけず、かつ手癖によって比較的高速で片付けられるライティング」をひとつひとつきちんと拾っていくことによって、プリーストは自分自身の大作を準備する期間を確保してきたのだろう。だからイグジステンズの小説化企画自体には、感謝してもバチはあたらないとも言えるのかもしれない。
レーベルは今をときめく竹書房文庫。訳者は前述した通り柳下毅一郎。二〇二〇年時点での