どうして動画のフレームレートは29.97fpsなのか
fps は frame per second (フレーム/秒)の意味。1秒に表示するフレーム数のこと。フレームとは画像の表示のこと。
「コマ数」とも呼ばれる。秒間nコマのように使われる。
30fps ではないのはなぜか?
映画は24fps
TV放送(カラー放送、NTSC)は29.97fps
人間の目は30~240fpsで現れる一瞬の絵を認識できる。
そもそもどうして映画のフレームレートは24fpsなのか?
無声映画(サイレント映画)時代は16fpsが標準的だった。
ジョセフ・プラトーが1829年に発表した研究論文『残響の持続』で、「一秒間に起こった一つの動きを表す16枚の絵が一秒の間に次々と示されれば、視覚の残像効果によってそれは一体と感じられ、元の動き同様のものを知覚する」と述べている。(*1 P.59)
ただし、これは経験則らしい。
「プラトーは毎秒16コマ以上なら画像は動いて見えると論じているが、この数字はまったく科学的論証はされておらず、たぶんに経験的学説であったと思われる。」(*1 P.61)
リュミエール兄弟は、様々な実験をして、16fps で十分と判断した。
無声映画が妙に早回しで再生されているのはこれが原因になっていると思われる。16fpsの動画を24fpsで再生しているので1.5倍速になってしまう。(正しい知識があればフレームレートを正しく設定するはず)
映画館ごとに再生速度が違っていた。(*2)
昔の映画は、フィルムと音声はレコードや磁気テープなどで違うメディアになっていた。このため同期が外れることがあった。
映画館は収入を増やそうとして早回しにする傾向があった。
動画と音声の同期を合わせるには厳密にフレームレートを決める必要があると認識されるようになった。
フレームレートが高くなると以下の問題がある。
1フレームを撮影(感光)するのに十分な光量が得られなくなる。当時のフィルムの感度では高フレームレートは厳しい。
フィルムのコマ数が増えるとその分フィルムにかかるコストが増える。長さが2倍なら2倍のコストになる。
フィルムの端に音声を載せようとしたときに、16fps では高音を出すことができなかった。
映画のフィルムの音声には光学方式と磁気方式とがある。
撮影時に同時に録音するために、フィルムの端に音声トラックがつけられる。いきなり光学で記録することはできなかったので磁気方式になる。 (*1 P.63)
1秒間に進むフィルムの長さの中に1秒間の音声を入れる必要がある。
可聴周波数は20kHzなので、1秒あたり20000回の振動を記録しなければならない。16fpsだと、1250回/フレーム、24fpsだと、833.3回/フレーム
(*1)の説明だとモーターの回転数(rpm)が録音周波数を決定づけているように読めるが、単位が異なるため、根拠がよくわからない。
「米国では電流は1秒間60サイクル (60 Hz)であり、カメラと録音機を同期させるシンクロナスモーター (電源周波数に比例して回転するモーター) はこの基準に従って回転していた。すなわちカメラを16fsで走行させた場合 16×60(Hz)=960回転/分 (rpm)の回転速度だが、これでは満足な音質にならない。そこでフィルム速度を24fsにしてシャフトスピードを1440rpmまで上げ、1.4KHzまで記録可能とした。その結果24fs (1.5ft/min) が新しい映画撮影・再生の基準として採用されるようになったのである。」(*1 P63)
結果的にもっとも都合がよかったのが16fpsに対して、1.5倍速の24fpsになる。
1.5倍なのはおそらく歯車を2:3にするだけで済み、作りやすかったからでは。
どうしてテレビ(白黒放送、モノクロ放送)のフレームレートは最初30fpsだった?
日米は走査線525本、毎秒60フィールドだった。(インターレース方式なので1フレーム=2フィールド)
欧州は走査線625本、毎秒50フィールドだった。(インターレース方式なので1フレーム=2フィールド)
以下の理由による
テレビでは、電源周波数の影響を受ける。北米の電源周波数は60Hz、欧州は電源周波数は50Hzだった。
フリッカー(画面のちらつき)を減らすには50~60フィールドにするのが適当だった。
実現可能な技術(帯域幅)として50~60フィールド程度が適当だった。
カラー放送(NTSC)で 29.97fps になった理由は?
カラー放送では白黒放送との互換性が必要だった。
そこで、色信号と輝度信号の2本建てで送ることになった。白黒テレビでは輝度信号のみを表示すればよい。カラーテレビでは、色信号を加えてフルカラーにする。
色信号を白黒テレビの信号に乗せようとすると、輝度信号と音声信号(FM変調)にかぶらないように乗せる必要があった。
クロストーク(信号が混ざること)を避けるため、周波数を適切に選ぶ必要があった。
輝度信号のスペクトルのピークはライン周波数ごとに現れる。これはラインの上下の映像がほとんど同じになるため。
これに対して、色信号の搬送波によるスペクトルがちょうど間に挟まるように選択した。(周波数インターリーブ)
これでうまく帳尻を合わせた時に、30fps × 1000/1001 = 29.97fpsという有理数で掛けた値になった。
時:分:秒.フレーム番号でカウントするとき、30フレームでカウントしてしまうと、1時間で3.6秒ずれてしまう。このため、フレーム番号は、毎分 00, 01 フレームを飛ばして、10分の時だけ飛ばさずにカウントする。(drop-frame SMPTE)
For example, the sequence when frame counts are dropped:
01:08:59:28
01:08:59:29
01:09:00:02
01:09:00:03
For each tenth minute
01:09:59:28
01:09:59:29
01:10:00:00
01:10:00:01
PALは25fpsか50fpsのまま。
結局、動画制作ではどうするのが正解?
原則 29.97fps (59.94fps)を使う。
特に動画と音声を別撮りしている場合は速度を合わせないと同期できなくなる。
NTSC方式で録画しているもの(いわゆるビデオデッキ、ビデオカメラ)は間違いなく 29.97fps。
テレビ放送で使う場合、デジタル放送になった今でも 29.97fps が主流。
デジタルカメラで録画する場合も基本的には 29.97fps で録画されている。(29.97fpsを30fpsと呼称していることがあるのでややこしいことになっている。)
映画は24fpsが主流。これを高フレームレートにすると「映画らしさ」が失われることが知られている。
テレビで使う場合は、フレームレート変換でごまかすことになる。
PAL 方式だと、25fpsか50fpsになっている。要注意。
ゲームなど、動画と音声を同時に記録している場合で素材に使うつもりがないなら、特に気にしなくてもよい。
動画の容量を減らしたい場合はフレームレートを落とした方がいいことがある。その場合、29.97fpsに寄せるのが吉。
CGで動画を作るような場合、フレームレートは自由に設定できるが、映画調を目指すなら24fps、テレビ調なら29.97fps
YouTube のフレームレートの上限は今のところ 60fps
一般のPCの画面のフレームレートは60fps。最近は高フレームレート対応のモニタが増えてきてはいる。
Switch2 は 120fps 対応になった。
フレームレート変換は、フレームを2回重複させるか、フレーム間補完で1フレーム生成するか、多すぎるフレームを取り除くか、複数のフレームを合成するかで調整している。
フレーム間補完では、元々存在しないフレームが生成されるので、おかしなことになる可能性がある。
フレームを取り除く方法では内容が欠落する可能性がある。
フレームを合成する方法ではモーションブラーのようなぶれる映像になったりする。
(しかし現実にはそこで問題になることはなさそう)
デジタル 4K、8Kの時代になっても、いまだに 60Hzと50Hzは残っている。(例: 8K50p/8K60p)
NTSCとの互換性のために、8K/29.97p などもある。
デジタルでの場合は、どういうポリシーにするか、また録画機器、再生機器の対応度の問題になってきている。
参考資料
Wikipedia はとっかかりとしては良いが、正確な資料ではない。
フィルムの端に音声トラックがあることがわかる。
映画の24フレーム/秒が動画と音声の同期の標準化のために作られたという説
アメリカは60Hz、欧州は50Hz
SMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers)によって定義されているタイムコード
Drop-frame timecode
(*1)『映画技術の側面から見た1080/24Pの必然性と将来性』Noriko Kobayashi、P61、 駒沢女史大学研究紀要、2002年12月号
映画の24フレーム/秒が音声の品質のために作られたという説
シネマのネクスト・ウエーブ、”Higher Frame Rate” とは!?
NTSC のフレームレートはなぜ 29.97fps なのか
NTSC ~1000/1001の秘密~
NTSC ~フィールド周波数59.94Hz、1000/1001の秘密~
テレビ技術史概要と関連資料調査 (国立科学博物館 技術の系統化調査報告 第4集 P.181~P.233)
地上波でも「4K/60fps」が当たり前に? 総務省の審議会が「次世代地デジ」の技術的条件を答申 実現に向けて大きな一歩
フレームレート比較テスト用動画
YouTube のフレームレートの上限は60fps
https://www.youtube.com/watch?v=vCwEgJNICQE
https://www.youtube.com/watch?v=DT_0KlJhxvE