LtVPickUp~ピーター・ティール氏、波力発電でAIデータセンターを稼働させるパンサラッサに1.4億ドルを投資_260702
#Ecosystem_Building #Script #PickUp
▼ケース記事
https://finance.biggo.jp/news/pVCE-Z0BrX5PFN7BttwA
▼記事の要約
AIの急速な普及により、データセンターの電力重要が急増している。著名投資家のピーター・ティールが、その課題を海上で解決しようとするスタートアップPanthalassaに1.4億ドルを投資した。Panthalassaは、波の力で発電する自律型の海上ノードを開発しており、海で発電した電力をそのまま推論処理に利用することで、陸上の送電網への依存を減らすことを目指す。さらに、海水を冷却に活用できるため、データセンター運営における大きな課題である冷却コストの削減も期待されている。現在ポートランド近郊に製造設備を整備し、年内に太平洋で試験運用を開始させ、2027年の商用化を目指す。
▼会社概要
Panthalassa
設立:2016年
本社:アメリカオレゴン州ポートランド
創業者:Garth Sheldon-Coulson(CEO)、Brian Moffat(CIO)
事業内容:波力発電システム、海水冷却システム、およびAIコンピューティングラックを統合した完全自律型・非接続型の海上データセンター「ノード」の開発・運用
調達額:シリーズBにて1.4億ドル(累計調達額が約2.1億ドル)
https://gigascale.com/profiles/panthalassa-harnessing-ocean-power/
https://sacra.com/c/panthalassa/
Founders Fund
設立:2005年
本社:アメリカカリフォルニア州サンフランシスコ
創立者:Peter Thiel、Ken Howery、Luke Nosek
事業内容:VC(シードからクロースステージ)
運用資産:約120億ドル以上
主な投資領域:ディープテック、航空宇宙、エンタープライズソフトウェアなど
代表的な投資先:SpaceX、Stripe、Anduril、Airbnb、Facebook、OpenAIなど
https://sacra.com/c/panthalassa/
https://foundersfund.com/our_team
TIME Ventures
設立:2019年
本社:アメリカカリフォルニア州サンフランシスコ
創立者:Marc Benioff(Salesforce共同兼業者兼CEO)
事業内容:Marc Benioff氏の個人資産を運用するファミリーオフィスVC、企業コンサル
運用資産:非公開
主な投資領域:AI・ソフトウェア、気候テック、次世代インフラ、ヘルスケアなど
代表的な投資先:webAI、Proto Axiom、CarbonCaptureなど
https://pitchbook.com/profiles/investor/459407-62#investments
https://www.crunchbase.com/organization/time-ventures
SciFi Ventures
設立:2017年
本社:アメリカカリフォルニア州サンフランシスコ
創立者:Max Levchin(PayPal共同創業者、Affirm創業者)& Nellie Levchin
事業内容:Max Levchin氏夫妻のプライベートVentures Fund
運用資産:非公開
主な投資領域:フィンテック、AI、ディープテックインフラなど
代表的な投資先:Stripe、Supergood.ai、pomelo、Uberなど
https://scifi.vc/
*▼初期仮説
初期仮説(個人的にはこういう点が起業家にとっても価値だと思うので深掘りたいッス、な論点)
多くのAIスタートアップや事業者が、陸上の変電所のキャパシティ空き待ち、インフラ利用の制限、または一般の方からの環境懸念による反発などの陸上インフラの限界に足を引っ張られている。そのなか、Panthalassaのように既存の制限を完全に無視して海上へ移行する戦略は、一見リスキーだが、実は経営の自由度を極めて高める現時点では最も合理的な手段であると考えられる。
▼事前リサーチ by ずー
Q. 従来のAIデータセンターはどういう形?
従来のAIデータセンターは固定型インフラが主流で、郊外に巨大な建物を構え、その中に数万枚規模のサーバーラックを並べる構造になっている。こうした施設は既存の送電網に接続することが前提となるため、安定した電力供給と大規模な冷却設備を整えることが不可欠である。結果として、運用コストの多くがこれらの維持および管理に費やされている。
https://azby.fmworld.net/kids/izumi/93/?supfrom=top_pcusage
Q. Panthalassaのコア技術は?プロダクトとしてのAIは?
Panthalassaのコア技術は、複雑な可動部品を完全に排除した、ソリッドステートに近い超単純構造の鋼鉄製ノードである。全長85メートルに及ぶこの巨大な円筒形ノードが波の力で上下に揺動することで、内部の垂直管内に海水を激しく振動させ、高圧のジェット流を生み出す。この水流で単一のタービンを24時間休みなく駆動し、極めて高い効率で発電を行い、設備利用率は最大90%に達し、従来の風力発電や太陽光発電を大きく上回る。さらに、深海の水温は常に4~8度という安定した低温に保たれているため、通常であれば大量の電力を要する水冷システムを必要とせず、エネルギーを消費しない受動的な冷却を実現している。
一方で、PanthalassaはAIチップそのものの開発は行っていない。あくまでノード内部に密閉されたサーバーラック上で実行される、AIワークロードの運用に特化している。具体的には、大規模モデルの学習ではなく、一定の遅延が許容される画像認識や応答処理といった推論用途に焦点を当てており、データのやり取りには光ファイバーではなく衛星通信を採用することで、陸上へのデータ伝送を可能にしている。
https://constructiondigital.com/news/us-start-up-raises-us-140m-for-wave-powered-data-centres
Q. 海上データセンターの地政学的制限は?
Panthalassaが今回選定したノードの設置場所は、本社を置くポートランド近郊の海域だが、将来的には各国の領海や排他的経済水域を越えた公海での運用を視野に入れている。これが実現すれば、特定の国のインフラに依存しない、完全に独立した運用体制を構築できる。
しかし、公海での運用は有事の際に特定の国による軍事的な保護や法的救済を受けにくいという代償を伴ってしまう。さらに、自律型ハードウェアを公海上に設置すること自体が、海賊や敵対国家による物理的な攻撃、データの強奪、電波妨害といった新しいリスクを引き起こす。陸上のデータセンターでは想定すらされなかった地政学的・安全保障上の脅威に、直接さらされることになる。
https://sustainabilitymag.com/news/panthalassa-the-floating-wave-powered-data-centre-unicorn
Q. 日本で海上データセンターを作るとしたら?
日本には世界第6位という巨大な排他的経済水域、そして波力や海洋温度差といった大きなポテンシャルを持っている。もし活用ができたらかなり大きな機会ではないかと考えられる。しかし、日本近海は毎年巨大な台風が通過し、世界でも有数の過酷な気象ルートに位置している。そのため、日本に海上データセンターを作るとしたら、本記事にあったノードより極限気候に耐えられるスペックが要求される。実際に、2026年3月に日本郵船が主導した洋上AIデータセンターが横浜港大桟橋埠頭のミニフロート上で実証実験を開始した。その実証実験には塩害の影響、波浪や振動の影響、電力マネジメント、長期運用の信頼性などについて検証する予定である。
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02953/092000002/
https://www.nyk.com/news/2026/20260325_02.html
Q. PanthalassaがシリーズBに入った今、シリーズAの時と何が変わった?なんで今のタイミングで資金を調達できた?
シリーズAまでは、水槽実験や小規模実証実験(Ocean-1,Ocean-2)を用いた海洋物理学シミュレーションと発電・通信技術に対して基礎的な検証にとどまっていた。2026年現在、陸上の電力不足によるAIインフラ計画の延期が続出しており、この絶妙なタイミングでPanthalassaがパイロット製造工場を完成させ、実機であるOcean-3の商用生産体制を確立した。これらこそ、Panthalassaが1.4億ドルという大規模な資金調達を実現できた原因である。
https://gigascale.com/profiles/panthalassa-harnessing-ocean-power/
Q. Panthalassaの事業はAIスタートアップにとってどういう意味を持つ?AI最盛期におけるエネルギーはどういう行き先になるの?
GoogleやMicrosoftなどのビックテックは自社の生成AIを開発しながら、数千億円~数兆円規模の巨大投資で世界中に自前のAIデータセンターを建設して所有している。しかし、OpenAIやAnthropicなどの独立系AI会社は基本的にデータセンターを所有していない。OpenAIは筆頭株主であるMicrosoftのデータセンターをベースとして、さらに他のデータセンターも併用しており、AnthropicはAmazonおよびGoogle両方と契約を結んで、両社のデータセンターでモデルを動かしている。そして、その他多くのAI会社は特定のデータセンターと関連を持たず、クラウド事業者が提供するAI計算リソースを使った分だけお金を払ってレンタルをしている。そのレンタル金額はかなり高額で、サービス運用や中規模開発フェーズでは月額およそ150万~800万円が想定される。AI分野の爆発的成長によって、このコストはますますと高くなると想像できる。そんな中、Panthalassaの事業はAIスタートアップに超低コストかつ中立的なサービスを提供できる。
今回の事例はもちろん、近年各ビックテック社が検討している宇宙エネルギーの活用のように、目の前にあるエネルギーだけを消耗するのではなく、エネルギーが高密度に存在する現場に自ら出向いて消費する事例がこれからますます多くなると考えられる
https://www.stnet.co.jp/business/know-how/column125.html
https://www.gmicloud.ai/en/blog/how-much-do-gpu-cloud-platforms-cost-for-ai-startups-in-2026
https://www.businessinsider.com/data-centers-in-space-google-moonshot-project-suncatcher-tesla-openai-2025-11
▼結論
Panthalassaが超高額の資金調達を勝ち取れたのは、海上データセンターそのものではなく、従来の思考からあえて飛び出せる発想と勇気があるためである。
AI産業が爆発的に発展している中、ボトルネックがモデル性能ではなく、電力や土地などといった物理インフラの制約になりつつある。多くの事業者がそれらの制約を突破できるためにどんどん高額のコストをかけている。一方、Panthalassaは直接陸上データセンターのボトルネックと戦わず、波力発電と海水冷却を活用し、計算資源を海上へ移ることで、制約を回避することに成功した。もちろんリスクも存在するが、それらを上回るコストの低減や経営の自由度を獲得できる点から考えて極めて合理的な戦略だと考えられる。
また、現在のAIインフラはGoogle、Microsoftといったビックテックに支配されており、多くのAI企業がデータセンターを使用するために高額な利用料を支払わなければならない。Panthalassaがこうして既存インフラに対する依存から離れた、低コストかつ中立な選択肢を提供し、AI産業はさらに新たな一歩を進められる。
さらに、この事例はこれからの起業家と投資家の関係性にも示唆を与えた。Founder FundのPeter ThielらがPanthalassaを評価したのは、単なる発電技術ではなく、計算機がエネルギーのある場所へ自ら向かえて直接消費するという未来のエネルギー産業構造そのものである。今の時代において重要なのは既存の考え方をひっくり返せて、長期的な視点で新しい世界観にかけられるパートナーを見つけることかもしれない。