STONER
この小説は、ストーナーという男の淡々とした人生を書いているだけで、なにも劇的な出来事は起きないんですよ。農家出身のストーナーが主人公なんですが、高校を卒業して農家を継ぐのかと思いきや、お父さんから「大学に行け」と言われる。そのあと好きなことを見つけたり、就職したり、結婚して子供が生まれたり、ストーナーという男のごく一般的な人生が、生まれてから死ぬまで描かれているんですが…
でも、一見その何も起こっていないように思える淡々とした物語が、読んでいくとものすごくドラマチックに感じるんですよね。人間って、そういうものだなと。一見なにも起こっていないようでいて、一人の人間の内面にはとてつもない変化が起こっているんだな、と。
読んだ歳によって、感想が変わるんですよ。最初に読んだ時は30歳くらいだったかな。最近また読んでみた時に、ストーナーの死に方がとても身近に思えたというか、自分もこうやって死んでいくのかも、とはっきりと想像できたんです。
書かれているエピソードは、同じ大学の中にウマの合わないやつがいるとか、全部ちっちゃい話。その小ささこそがリアルなんです。ディティールの積み重なりこそが人生で、生まれたからにはそういう小さな瞬間を味わい尽くしていくしかないのかなと、そういう気持ちになれます。本当に最高の小説だと思います。