Bowling Greenの総合計画つくり with Polis

各論レベルの合意点をちゃんと抽出できている

このプロジェクトのポイントまとめ

1. 誰が (Who)

主体: ケンタッキー州 ウォーレン郡およびボーリンググリーン市の行政リーダーたち。

企画運営: 地元の戦略事務所「イノベーション・エンジン」。

技術提供: Googleの一部門である「Jigsaw」。彼らが開発したAIツール「Sensemaker」と、オンライン対話プラットフォーム「Polis」が使われました。

参加者: ボーリンググリーン市民 約8,000人。

2. 何をやったか (What)

背景: ボーリンググリーン市は、人口が今後25年で倍増（7.5万人→15万人）すると予測されています。この急激な成長を乗り切るため、25年間の長期ビジョン「BG 2050 Project」を策定することになりました。

目的: このビジョン策定において、一部のリーダーだけでなく、できるだけ多くの市民の意見を反映させること。

手法:

1. **"What Could BG Be?"（BGは何になれるだろう？）**と名付けた1ヶ月間のオンライン対話を実施。

2. プラットフォーム「Polis」上で、「今後25年、あなたの街に何を望みますか？」というシンプルな質問を投げかけ、市民に自由にアイデアを投稿してもらいました。

3. 市民は他人のアイデアに対して「賛成」か「反対」で投票しました。その結果、数千のユニークなアイデアが集まり、投票総数は100万回を超えました。

4. 集まった大量の意見を、JigsawのAIツール「Sensemaker」で分析。AIがアイデアを自動でトピック（例：教育、交通）やサブトピック（例：初等教育、高等教育）に分類し、全体の傾向をまとめたレポートをわずか数分で作成しました。

3. どんな成果が出たか (Results)

圧倒的な市民参加の実現: 従来のタウンホール集会などでは数十人しか集まらないところ、約8,000人もの市民が参加。これは当初想定していたリーダー層の約80倍の規模です。

行政の大幅な時間節約: AI（Sensemaker）のおかげで、通常なら数週間かかるデータ分析とレポート作成が数分で完了。リーダーたちは数百時間分の作業時間を節約できたと推定されています（平均で28日分の作業に相当）。

市民の意識向上とコミュニティの結束（事後調査より）:

参加者の**70%が「自分の声が重要だと自信を持てた」。

参加者の83%が「自分と違う意見への理解が深まった」。

参加者の83%**が「この取り組みは街のより良い未来計画につながる」と信じている。

政策決定に役立つ具体的な発見:

予想以上の「合意」: 対立点ばかりが注目されがちですが、実際には投稿されたアイデアの半数以上（2,370件）で80%以上の高い合意率が見られました。これにより、まず何から手をつけるべきかが明確になりました。

市民の真の関心事を把握: 交通問題のような定番の課題だけでなく、「ナイトライフや娯楽の充実」「アート・文化イベントの増加」「公園や緑地の保護」といった、生活の質（QOL）向上への強い願いが明らかになりました。

4. この実験から得られた方法論的なインサイト (Methodological Insights)

AIと「人間の知恵」の協働が最強である:

AIは大量のデータを高速で処理・分類できますが、そのデータが持つ本当の意味を理解するには、地域の文脈（歴史、地理、最近の出来事など）を知る人間の存在が不可欠です。例えば「川沿いの開発」に関する意見は、最近の行政の投資計画を知っている地元の人でなければ正しく解釈できません。AIと人間の協働が、最も実践的な洞察を生み出します。

「合意点」を可視化することの重要性:

社会的な対話では反対意見が目立ちがちですが、この手法は市民が何に合意しているかを明確に示します。これにより、行政は対立の少ない、支持を得やすい分野から政策を始めることができます。

テクノロジーが市民参加の規模と質を変える:

オンラインプラットフォームとAIを組み合わせることで、時間や場所の制約を超えて、これまで不可能だった規模の市民参加が実現できます。これにより、行政はデータに基づいた客観的な意思決定をしやすくなり、市民は「自分たちの声が届いている」という実感を得ることができます。このボーリンググリーンの事例は、他の都市が成長と市民参加の課題に取り組む上での、優れたモデルとなり得ます。