2021/0716 サイモン・ハンター監督『イーディ、83歳 はじめての山登り』
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その伏線を担うのが、地元で登山用品店を経営する青年ジョニーです。彼は田舎町から出られない自分にどこか引け目を感じ、共同経営者の妻フィオナが示す事業家気質にも抗えない人物として描かれています。 勝ち気なイーディと優柔としたジョニー。二人は年齢的にも立場的にも相容れないように見えて、その内心は抑圧を抱え孤独を生きる同じ悩みの持ち主です。その共通の土壌に同朋意識が生まれます。ジョニーが83歳の婦人のトレーナーを務めるのも、安全のためというより、自身の心情を彼女の夢に託したからでしょう。 イーディは老人施設への入所手続きの際、手伝いにきた娘に古い日記を読まれてしまいます。そこには、夫の介護へのはげしい不満が綴られていました。そのことを非難する娘に腹を立てたイーディは日記を燃やしてしまいます。こうしてイーディは、苦い過去を心に閉じ込めたまま旅立つことになります。 イーディはジョニーにも頑なです。どうしても独りで行くと言い張るイーディの身を案じたジョニーは、自分の携帯電話を渡します。そうとは知らずに電話したフィオナは、電話にイーディが出たことで、「あんた、バカじゃないの」とでもいうほどにジョニーを責めます。
フィオナやイーディの娘が生きる世間的で前に進むばかりの日常と、投げ捨てることもできず、まとわりつく過去や事情を抱えるイーディ。しかし、そこにあるのは不幸な思い出ばかりではありません。亡き父と交わした「いっしょにスイルベン山に登る」約束が、83歳になったイーディを一歩づつ山頂へと向かわせます。 https://scrapbox.io/files/62444dd0257710001f810aa4.png
そして、ついにスイルベン山の山頂にたどり着いたイーディ。山頂のケルンに歩み寄り、ポケットから取り出した小さな石を置くイーディ。これはもう、父親とここにたどり着いた証そのもの。そう思うと余計に、彼女を苦しめてきた抑圧からの解放が心に浮かび、見ながら感動を覚えました。そして、眼下に広がる日常世界。ああ、あそこを抜けてここに立っているのだという爽快感。ほんとうに素晴らしい人生の到達点だなと思いました。 そんなわけで、この『イーディ、83歳 はじめての山登り』は高齢者の登山を描きながらも、抑圧からの解放を描いた自己回復の物語だった、というのがわたしの感想です。 ***
最後に一点追加ですが、映画に登場するスイルベンという山、Wikipediaによると標高731mとあります。低山ですが、頂上へのアプローチがかなり急峻ですね。これを撮影で実際に登ったとは驚きです。イーディを演じたシーラ・ハンコック、撮影当時ご自身も83歳だったそうです。彼女のように健康で長生きしたいものです。 https://scrapbox.io/files/62444dd7f7ccc1001d66a709.png
制作:Pイギリス P2017
分類:Cドラマ