頸飾事件
フランス宮廷司祭である枢機卿ルイ・ド・ロアン(一七三四―一八〇三)にからむ詐偽事件である。ロアンは当時派手な性格の上に、王室が充分経済的な面倒を見てくれないところから、巨額の借財に苦しみ、ルイ十六世の妃マリ・アントワネットの寵を得んものと機会を覗っていた。たまたま一七八四年王妃が入手を希望した百六十万リーヴルの頸飾の購入を、王が拒否したという噂を耳にしたロアンは、これを買いとって王妃に贈ろうと考えた。そこでこれを信用状で買いあげた上、ド・ラ・モット伯爵夫人の邸で王妃の使者と称する男にこれを手交したが、この男実は伯爵夫人の情夫であって、すべて夫人が情夫と共謀してたくらんだ詐偽であり、ロアンはまんまとこれに引掛かったのである。これがためにロアン自身も追放の憂目に遭ったという当時社会の話題を賑わした事件である。