「唯一性に関する共謀」
『わかりやすい英語冠詞講義』の中で石田秀雄氏は、Oliver Grannis氏の「唯一性に関する共謀」(conspiracy of uniqueness)を取り上げ、受け手が指示対象を唯一的に同定しているはずだと判断している書き方を作者があえてすることにより、読み手は作者と共謀して「その指示対象がいったいどれであるのか、あたかも初めからわかっているかのごとくふるまわなければならない」とし、「このような形で作者との共謀をはかることによって、読み手は物語の中に一気に引き込まれていくことに」なると説明する。
少し小難しい話になったが、SF小説などに見られる手法で、受け手の知らない空想上のこと(新情報)を公然のもの(旧情報)であるかのように描写することで、受け手はそれを前提事実として受け入れることになり、それが受け手と作品との間の距離をぐっと縮める仕掛けとなるということだ。
『Fallout 4』の場合も、単純にゲームとして面白いというだけでなく、ゲーム上の数々の”設定”を旧情報として私が受け入れたことで、物語に入り込むことができた。この主体的な共謀による没入体験は、美麗なグラフィックでも複雑なインタラクションシステムでもなく、”ことば”の助けなくしては成立しないものだと思う。