ネオカメラリズムにおける救貧の問題
ネオカメラリズムにおける救貧の問題
たいていの人は政府の貸借対照表の資産の部に入るが、中には負債の部に入る人もいる (The Dire Problem)
ヤーヴィンは、この問題への解決を4つほど挙げている。
0. 評判
救貧などをしたほうが評判がよい。
1. 福祉受給権の株式化
現状の社会保障の受給者や、行政府の一部の組織を独立化したもの、チャリティ団体などが、ネオカメラリスト企業の株式 (もしくは議決権はないが政府税収の分割支払いを受ける権利) を持てばいいと言っている。
これは再分配ではなく、初期分配で平等にしようとする左派リバタリアンの試みを思わせる(?) (井上彰 "自己所有権と平等 左派リバタリアニズムの意義と限界")
ある意味で、そのような世界は社会保障が政策ではなく具体的権利 (生存権の具体的権利説が言うように) である世界である 実物ではなくお金という形になるのでベーシックインカムみたいでもある
それがちゃんと払われることがどう保証されているのかは不明だが。
「配当権」という名前にしたからといって、「国民にベーシックインカム保証!!!!」などと政府が口約束するのと何が違うのか
彼は立憲主義は憲法を解釈する主体に主権を移すだけだから意味ないみたいなことを言っているが、配当が支払われるという権利の保証というのは憲法で生存権を保証するのとあまり変わりないのでは
(1)の提案にしたがう限り福祉の、リスクを分散する保険としての意味がなくなりそうだ (チャリティ団体の場合は保険にすることもできるか)
2. チャリティ、成人後見人、私的パターナリズム
チャリティ、及び、貧困者の成人後見人化を提唱している
自己奴隷化契約
<追記>以下の議論はあやしい</追記>
貧困の解決が公共財であることの強引な解決 (貧困の私有化) か
マンキュー経済学に、救貧は公共財であるという論点がある
寄付をして人を支援するインセンティブは、フリーライダー問題が起こる(誰か他の人が寄付するだろうから自分はいいや、とみんなが考える的な)けど、結婚とかパトロンによる支援は、フリーライダー問題を防げるわけだ。 少なくともフリーライダー問題の点で、扶養義務なんかは寄付より優れてると言える。
いやなんかおかしいな。他の人が寄付するだろうから自分はいいやというのは、フリーライダー問題じゃなくて、コーディネーション問題では?
もしフリーライダー問題なら、仮に他の人がやらないとわかっているとしても、自分がやるインセンティブはないはずだ。ナッシュ均衡の定義上、相手が裏切るとわかっていても自分は裏切るインセンティブがある。
後見人へのリソースの移転では、寄付と違って、フリーライダー問題だけでなく、情報の非対称性の緩和により、モラルハザード も防げる可能性がある 貧乏な人も、意志決定能力無い人も、同じ扱いでいいの
今の福祉でもフードスタンプとかは貧乏人は意思決定能力が低いことを仮定しているか
論拠としては福祉国家によるパターナリズムの擁護と同じく、貧乏人は主に意思決定能力が低く(or 時間選好が高い, 双曲的である)、パターナリズムが必要ということだが、ヤーヴィンは官僚的奴隷制ではなく、個人的奴隷制を推奨する 国家パターナリズム = 人間の公的な所有 ; 後見人制度 = 人間の私的な所有
たしかに、自己コントロール能力がない人が、自己所有権 (自由) を持っていても利益になるとは限らない
不合理なバイアスが、体系的バイアスであることは、法律によるパターナリズムがいいことを示すのでは?
別に私的なパターナリズムでもルール化は可能だけど
ヤーヴィンの貧困への態度で面白いところは、(1)のベーシックインカム的な(反パターナリズム的)提案と、(2)の極端なパターナリズムを同時に提唱しているところだ
We could go even farther than this〔this=「チャリティ団体に政府税収の分割支払い権を与えること」〕. We could issue these charitable shares not to organizations that produce services, but to the actual individuals who consume these services. Why buy canes〔canes=杖〕 for the blind? Give the blind money. They can buy their own freakin’ canes. If there is anyone who would rather have $100 worth of free services than $100, he’s a retard.
Some people are, of course, retards. Excuse me. They suffer from mental disabilities. And one of the many, many things that California, State of Love, does, is to hover over them with its soft, downy wings. Needless to say, Stevifornia will not have soft, downy wings. It will be hard and shiny, with a lot of brushed aluminum. So what will it do with its retards?
retardの存在を認識し、対応策を考えている点でベーシックインカム支持の自由市場主義者より現実的と言える (貧困を全てそう扱わない点では単純なパターナリストより良い) かもしれない
(認知能力・非認知能力の欠如はどちらかというとパターナリズム的福祉の理由になるので、貧困がそれらを原因とすると考え、にもかかわらずベーシックインカムを支持する人はちょっと変である。『ベル・カーブ』のチャールズ・マレーはベーシックインカム支持者らしいが!)
3. CEOの権限による救貧政策
The Dire Problemの記事では「The Dire Problem に対してネオカメラリスト企業のCEO自らが税収最大化を犠牲にして貧しい人のための職作りなどの慈善事業を行うべき」と言っているが…
→これは「組織が、説明責任を負っている契約上の受益者の利益に背いて他の受益者のためと称して事業を行うことはウルトラ・ヴィーレスの法理に反し、(新たな受益者には説明責任を負わないため) エージェントの無責任な裁量増大につながる」という彼自身の論点と矛盾するのではないか? 君主制との差異を軽く見て、まるでCEOがエージェントではなく本物の王さまかのように考えていないだろうか? (結局「企業の社会的責任」――企業の社会的責任はフォーマリズムに反すると思われる―― と同様の問題がある) 株主の合意による場合はこの問題は解決できるにせよ、どの救貧政策が望ましいのかを決定する方法は利潤最大化に比べて明確な基準が無いため、株主間の合意形成やCEOの監督に関わるコストを上げるだろう
ゆえに、わざわざ株式間で合意を取るより、株主がお金を個人的にチャリティに寄付したほうがいいのでは?
あるいは主権株式会社が貧しい人と貧しい人を助けたい金持ちとの間の仲介をして手数料を取るくらいはできるだろうが
多様な都市国家間での競争というビジョンからは、そういうことをやる都市国家があってもいいということで整合的かもしれないが
4. 水槽の中の脳状にしてVR世界に幽閉
ハロー、「文化的な最低限度の生活」!
これヤーヴィンは「安価な福祉」として提案しているのだろうか、「良質な福祉」として提案しているのだろうか
あんまり安価ではないよね?
維持コストは普通に人間を生かすのに比べると安いのか??
そこまでコストが下がるなんて??
言ってみただけかもしれん
(編集者は注でtrolly(釣り)っぽさがあると言っている)