アレクサンダー・ウィリアム・サルター
政治的所有権、企業としての政府、競争する政府、 プライベートガバナンス、という観点からのアラブ首長国連邦 (※アラブ首長国連邦の首長国の1つがドバイ)、シンガポール、プライベートシティという論文
上までに見た伝統的企業と企業的政体の相違は、具体的な予測を示唆する:それは、 政体が(その背後にある所有権配置において)伝統的な会社に似たものであるほど、政治的所有権の保持者が賢く統治する可能性が上がるということだ。
もう一度言っておくと、この文脈における「賢く」というのは、政治的所有権の保持者が繁栄することを意味しており、つまりそれは略奪的国家の振る舞いを避けられるということだ。
ある意味では、企業的政体は仮説の上で責任ある (responsible) 政府であるけれども、領土内で確定的な権利の集合に対し最終的なコントロールを主張する(主権)という意味で略奪的ではあって、そのような主張を通すために強制力の使用やその仄めかしをしているわけだから、オルソン(1993)が言う定住型盗賊〔定住するので長期的な視点に基づいて略奪する盗賊〕に似ていると言える。 でも、コモンズ的国家〔つまり、民主主義国家のこと〕における、オルソンが言う流浪型盗賊〔流浪なので、短期的な利益に基づいて略奪する〕に似た状態に比べると、〔企業に似た政府の〕状況は、富を生産する統治をできるという点で顕著な改善である。(p.8) シンガポールが統治を提供するビジネスにおけるコングロマリットなら、アラブ首長国連邦は同種のサービスを提供する家族経営のビジネスとしてモデル化できるだろう。(p. 11)
クウェートはイギリス宗主下の国としての長い経験があって自由民主制に似た政体を取る顕著な政治的伝統がある。一方アラブ首長国連邦の首長国はほぼ絶対王制である。この違いは、それらの政体間での政治的所有権〔の構造〕の重要な違いを示唆する。
立憲議会制君主主義のクウェートでは、国はコモンズだ。いっぽうアラブ首長国連邦の首長国では、政府の税収に関する権利が明示的になっていて、国は私的に所有されている。”アラブ首長国連邦では、議会がないので、主として民間セクターの成長に関心を持つものの手に政治権力がある。” (Herb 2009: 384)
だからクウェートでの政治がかなりの量のレントシーキングで占められているのに対し、首長国では特に社会に対しコストを要求する行動が統治家族〔王室〕の制度によって強くチェックされているのは驚くには当たらない。(p.13)
離国の可能性がある以上、統治者による政府決定の外部費用〔集団的意思決定に賛成しない人がそれでも従わされるときに被る費用〕は意思決定費用〔集団的意思決定のための交渉に要するエネルギー、時間、金銭のロス〕に対して少ないと思われる。 他の条件が同じならば、携帯電話で他のケータイにチェンジできることにより携帯電話ビジネス会社でヒエラルキー的・権威主義的な会社の意思決定構造が効率的になっているのと全く同様に、〔政府でも〕ヒエラルキー的・権威主義的な意思決定構造が効率的であることを示唆する。(p. 19)
"Earth, Inc."というFnargl (「新反動主義」Part 2 〜 ネオカメラリズム) に似た話も登場する。とはいえ、著者サルターはその場合(つまり離脱が認められない場合 = 外部費用が高い状態)では株式会社に似た政府ではなく立憲連邦共和国の方がいいだろうと言っている (これはTiebout modelというのに基づくらしい) しかし、Fnarglの思考実験の趣旨は、政府の意思決定によって被治者に発生する外部費用は (実際は部分的にそうであるに過ぎないだろうけども) 税収に内部化されているということだろう
国が (地理的に) 大きくなると外部費用だけでなく意思決定費用も上がるから、立憲連邦共和国と言っても(グローバルレベルでの)民主主義ではないのだろう(たぶん)。
「国が (地理的に) 小さい場合は直接民主制がいい」という意見と、「国が小さい場合はシンガポールが良い」という相反する意見があるが、前者は国が小さいことによる意思決定コストの低さ、後者は国が小さいことによる外部コストの低さに注目したものと捉えられそう (前者は人口、後者は地理的な大きさ では)
アブストを見る限りではネオカメラリズムのパクリっぽいが…
しかし、今の所カーティス・ヤーヴィンへの言及は発見していない (ポストカメラリストの論文を読んでないからかもしれないが)。ハンス・ハーマン・ホップやエリック・フォン・クーネルト・レディーン、ベルトラン・ド・ジュヴネルなどヤーヴィンに影響を与えた人には言及していた。
ポストカメラリストの論文を今見たら、ヤーヴィンの名前はない
主権起業家精神?
フリードリヒ大王の『反マキャベリ論』
リヒテンシュタイン
ディアブロIIにおける貨幣出現を扱った論文 (関係ない)
たしかAlexander William Salterのことは"political property rights"というNick Szaboの用語でググった時に発見した。