シンセサイザーとは
これは何?
シンセサイザーの概観とデジタル・アナログの違いについての解説用メモ
音波と古典的な楽器
音とは波だ。波は全て正弦波の集合で構成されている。正弦波は周波数で音高が決まり、振幅で音の大きさが変わる。
音色は倍音によって決まる。自然界に純粋な正弦波の音は存在せず、音には必ず無数の倍音が含まれている。倍音とはある周波数の正弦波を基準=基本波とした時、基本波のN倍の周波数の正弦波だ。音色は倍音成分で決まる。
楽器とは、音階に対応する周波数を基本波とした音を出せるように調整された装置だ。基本波の振幅が最も大きいため、たとえば複数の楽器同士で倍音成分が異なっていても、人間はそれが同じ音階だと認識できる。楽器を作る職人は、音がより綺麗になる(或いはより特徴的になる)ような倍音を発生させるために、音を響かせるための空洞を作ったり楽器の材質を変えてみたりする。
交流電流とシンセサイザー
交流電流とは、電流・電圧などが周期的に変化する電流だ。これも音波同様に波である。
スピーカーは電気信号を音波に変換する装置だ。電磁石によって鉄心を動かして振動板を叩き、空気を振動させて音を生み出す。電気信号の周波数(交流電流の周期)によって振動の周期が変わり、振幅(=電圧)によって振動の大きさが変わる。逆にスピーカーに音を与えて振動板を震わせると、鉄心がコイルの中で動き電磁誘導によって電流が発生する(=マイク)。
スピーカーは交流電流と音波の変換装置とも言える。
つまり、任意の波形をした交流電流さえ生成できれば好きな音を作ることができる。
古典的な楽器は材質や構造を工夫して音色を変化させていたが、シンセサイザーは電気的に波を操作して音色を変化させる。物理的なアプローチでは生成不可能な音を、シンセサイザーでは電気回路によって実現できる。一方、自然界に存在する音(ex.声や楽器)のような非常に複雑な音波成分で構成される音を生成することは得意ではない。シンセサイザー特有のピコピコ音は、シンセサイザーがそういう音色を目指して作られたというより、単純な波形を生成するので限界だったと見ることもできるかもしれない。
アナログとデジタル
アナログは連続的な量で、デジタルは飛び飛びな値によるアナログの近似表現である。デジタル画像は拡大するとピクセルが見えるが、現実でそんなことは起こりえない。デジタル表現は0と1の二状態しか扱えないコンピュータ内で上手く情報を扱う為に用いられる。例えばマイクからコンピュータに音声を取り込む時、アナログデジタルコンバータ(ADC)によってアナログ情報(電気信号)がデジタル情報に変換される。
とある1入力(i1)4出力(o1, o2, o3, o4)のADCを考える。それぞれの出力はlowとhighの二状態しか持たない(つまり、電気が流れていない/流れているの二状態)。このADCのi1に5Vを入力すると、出力はそれぞれo1=low, o2=high, o3=low, o1=highとなった。これは二進数の0101(=10進数の5)として考えることができる。このように二進数表現に変換された後は、論理回路で構成されたコンピュータ内で好きなように計算処理できる。
(こんなADCが実際にあるかは分からない。あくまで例)
https://scrapbox.io/files/63a70814f110e9001d5a3102.png
このADCは4出力=4桁なので4bitまで値を表現できる。これを分解能といい、高ければ高いほどより細かくアナログ信号をデジタル信号に変換できる。このADCは4bit=16通り=0~15V(整数)の変換しかできないが、もし8bit=256通りならもっと値の間隔を細かくして小数点以下の値も表現できるかもしれない。勿論、bit数が大きいほど計算も大変になる。オーディオインターフェースなどでよくみる○○bitというのはこの分解能を表している。
では、オーディオIFの○○Hzは何なのかというと、これは変化するアナログ信号をどれくらいの周期でデジタル信号に変換するのかという値だ。分解能は値の大きさの細かさだが、サンプリングレートは時間的な細かさにあたる。サンプリングレート1HzのADCなら1秒ごとに変換処理を行う。
下図において緑色をサンプリングレートとしy=1でサンプリングする場合、そこにサンプリングレートの二倍の周波数で変化する信号(青)を入力しても、各サンプリング間の値は読み取られないので、デジタル出力は常に0になってしまう(赤)。逆にオーディオ機器並みの超高速レートなら人間には判別がつかないレベルで近似されたグラフが出てくるだろう。
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ADCの逆はデジタルアナログコンバータ(DAC)だ。音響機器の方のDACはコンピュータから出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換してスピーカーで再生できるようにするわけだから、その名前で呼ばれている。
音声処理の全てをアナログな電気回路ではなく、コンピュータのプログラム上で実現するシンセサイザーはデジタルシンセサイザーと呼ばれる。普通のPC上で動くソフトウェアシンセサイザーもそういう意味ではデジタルシンセサイザーだが、デジタルシンセサイザーと呼ぶ時大抵はマイコン制御のハードウェアシンセサイザーを指す。
一部でもマイコンを使っていたらそれは全てデジタルシンセサイザーなのかと言ったらそんなことはなく、波形の生成だけはマイコンで行って加工や制御、エフェクターはアナログ回路で実現しているというようなシンセサイザーはアナログシンセサイザーにあたる。マイコンはアナログ回路に対して遥かに低コスト・省スペースで様々な処理を行えるのでよく採用される。しかし、アナログ回路には電子部品の特性など無数の物理的な要因によってデジタルでは再現困難な特性が生まれやすく、それが音に反映されるためコンピュータが普及した現代でもアナログシンセサイザーを好む者は少なくない。