フェミニズム・アート
Feminist Art
日本においては、例えば画家の富山妙子が従軍慰安婦や炭鉱労働者の問題について、戦後から現在に至るまで、精力的に作品を制作しているが、フェミニズム・アートが盛んになるのは1990年代である。嶋田美子は「The Personal is Political(個人的なことは政治的なこと)」というフェミニズムの思想のもと、他者との関係性のなかで個人の当事者性を再考させる作品を発表し、美術史研究においてもジェンダーやセクシュアリティを理論化した研究が数多く発表された。欧米のフェミニズム・アートの紹介や研究の翻訳が相次いだのも、おおむね90年代だった。 だが、2000年代以後、フェミニズムという単一の視点に集約しかねるほど問題の論点が拡散したせいか、フェミニズムとアートは徐々に切り離される傾向にある。女性性の快楽を映像化するピピロッティ・リストがフェミニズムとの関係性でほとんど語られないことはその象徴と言えるだろう。 参考文献
『女?日本?美? 新たなジェンダー批評に向けて』,熊倉敬聡、千野香織編,慶應義塾大学出版会,1999
『反美学』,「他者の言説」,クレイグ・オーエンス,勁草書房,1987
『ジェンダー・トラブル』,ジュディス・バトラー,青土社,1999
『美術とジェンダー』,鈴木杜幾子、千野香織、馬淵明子編,ブリュッケ,1997
『猿と女とサイボーグ』,ダナ・ハラウェイ,青土社,2000
著者:福住廉