アプロプリエーション
Appropriation
作品のなかに過去の著名な作品を取り込むこと、「流用」「盗用」とも。
現代美術の表現方法は、主題の変奏から先人の作品の模倣、改作からコラージュ、引用と展開したが、それはアーティストを取り巻く状況の変化と対応している。雑誌を切り抜いて制作した1920年代のコラージュ作品は印刷物の移動を示していたが、もはや1980年代になると印刷物という実体ではなく、モニター上のイメージのみが氾濫し、オリジナルという概念は完全に崩壊する。するとコピーという概念の定義すらも怪しくなる。特定の時代、場所といったコンテクストから外れた図像がひとり歩きしていく。そうしたなか、引用することで新たなイメージを生み出していくような作品こそが「過激で」「先進的な」作品であると見なされるようになっていく。80年代にアメリカのシェリー・レヴィーンが、ウォーカー・エヴァンスなどの写真作品を再撮影して発表したのが「アプロプリエーション」の始まりだとされる。しかし、アプロプリエイトした作品はつねにアプロプリエイトされる可能性に晒されているため、その過激さや先進性は必然的に薄れ、ウェブ上で実体なきイメージが氾濫する現代では、そうした方法は急激に失速した。 参考文献
『増補 シミュレーショニズム』,椹木野衣,筑摩学芸文庫,2001
著者:宮田徹也
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「流用」。既製のイメージを自作のなかに取り込む技法としては、すでに今世紀初頭の段階で「コラージュ」や「アサンブラージュ」が開発されていたが、「アプロプリエーション」は一層過激なものであり、「オリジナリティ」を絶対視する近代芸術観を嘲笑するかのようなその意図と戦略は、しばしば高度資本主義との並行関係によって語られることになった。代表的作家に数えられるマイク・ビドロ、シェリー・レヴィーン、リチャード・プリンスらが近年いずれも失速を余儀なくされているのを見ると、この動向が80年代のポストモダニズムとの密接な関係のうちに成立していたことが了解される。なお、流用に際して必ず何らかの変形を加えるのも「アプロプリエーション」の特徴で、代表的手法としては、引用よりは略奪と呼ぶのが相応しい「サンプリング」、切断を交えた「カットアップ」、絶えず反復する「リミックス」などが挙げられる。 執筆者:暮沢剛巳