錯乱のニューヨーク
本書では、著者自身が20世紀初頭のマンハッタン建築家の代弁者として、マンハッタン成立の過程から資本主義経済下で現われる都市的現象に至るまでを断章的に綴っており、そこに見出せる理論構造を「マンハッタニズム」と定義したことで広く知られる。出版当時の硬直化していたモダニズム建築の理論を乗り越えるものとして、ロバート・ヴェンチューリは古典的様式の引用によるポストモダンの建築論を唱えたが、コールハースはすでに反モダニズムを体現していたものとして、近代アメリカの摩天楼に着目した。マンハッタンのあらゆる空間原理は空間の最大効率化をめざす「過密」の論理に基づいており、この原理によって成立する都市のなかでは建築物の内部と外部、あるいは各階の機能が分裂する状況がもたらされる。コールハースはこれを「建築的ロボトミー」と称し、プログラムとアクティビティの機械的な並列に可能性を見出している。またグリッドによって分割される「ブロック」は、その範囲内での自由を保証しつつ、ほかのブロックとは切り離されている。資本主義の欲望から自動生成される錯乱した都市像は、規範的なモダニズムとは正反対のものだ。