資本主義は才能のある人に不利である?
https://youtu.be/d1z_2k9iYZ4
「なぜ成功は、もっとも才能のある人ではなく、もっとも幸運な人に行くかの数学的な説明」(Alessandro Pluchino, Alessio Emanuele Biondo, and Andrea Rapisarda "Talent vs Luck: the role of randomness in success and failure")
上記動画によると、それは「人生の成功は才能ではなく運で決まる」というもの。 科学者のキャリアの長さと論文の出来には相関関係がない。
2016年にノースイースタン大学が調査した結果によれば、合計2887名のノーベル物理学賞受賞者を調査した結果、やはり生涯最高の論文を出版する時期と科学者のキャリアの長さが関係ないことがすでに統計的に証明されている。
これは科学者が偶然、有益な発見をすることが多いからだと言われている(セレンディピティ効果と名付けられるほど数が多い)。 超天才的な閃きが人生のどこで発生するかはランダム。
他にも、「名字のイニシャルが早い方が著名な経済学者になれる」「CEOになる確率は名前や誕生日に強く影響される」など、才能と関係のない要素が人生に影響を与えることがすでに幾つかの論文で発表されていたりする。
今回の論文
とはいえ、「人生の成功に才能よりも運で決まるは言い過ぎじゃないか」という指摘に対し、実際に仮想都市を構築し、そこに住む1000人の国民で人生シュミレーションをして答えを出したのが今回の論文。
まず仮想の都市には20歳の1000人の国民が住んでおり、この国民はみんな同じ量の資産を持っているが、一人一人才能が異なる数値に設定されている。
この才能は0.3~0.9で設定されており、その分布は正規分布に従う。なおこの数値が変わることはない。
この国民たちは半年ごとに3つのイベントをランダムに経験する。ただしイベントの確率は均一ではない。
一つは「平穏」。ただしこの都市の国民の人生の多くはこのイベントを経験する。
二つ目は「幸運」。これは才能に応じて確率的にその国民の資産を2倍にさせる。
才能の数値が高いほど、幸運のイベントによって資産を倍増にできる確率は高まる。
この実験では、「運によってもたらされたチャンスを生かせる力」=才能としている。
三つ目は「不幸」。これは才能に関係なく、その国民の資産を半減させる。
この国民たちはこの条件で定年までの40年間を働く。では40年後の彼らの資産はどうなっていたのか。
実験の結果の二つ
一つは「パレートの法則」に従ったというもの。「パレートの法則とは、全体の8割はその構成要素の2割を占める」というもの。 実験後の国民全体の資産の内の8割は、上位2割の国民の試算によるものだった。つまり、格差社会となっていた。
資本主義では、富める者の富が際限なく増えていくため。資本主義の特徴の一つ。 この実験結果は実験に説得力を持たせた。なぜなら私たちの現代の資産分布もパレートの法則に従っているから。
この実験の設定は現代の経済学を上手く再現できている。しかし、現実世界の方がもっと深刻であり、最も裕福な人間の8人の富と36億人の富が等しいとされている。
もう一つは実験後の都市における大富豪は誰であったかという問題。
何度か実験しても、一番才能の値の高い人間が一番の大富豪になることはなかった。
「幸運」のイベントに一番遭遇し、「不幸」のイベントに最も遭遇しなかった人間、つまり一番運のいい人間が一番の大富豪となった。大富豪は決まって「幸運」が多く、「不幸」が少ない。
逆に、一番の大貧民は最も不幸なイベントに遭遇した人間だった。
才能の値別の最終資産の結果の分布を見ると、全体的に才能が高い方が最終資産は多くなる分布にはなっている。
しかし、この年の一番の大富豪は決まって「平均よりほんの少し才能のある人間」(値:0.6)だった。
これは平均的な才能を持つ人間が最も数が多いのだから、最も幸運な人間はその中の誰かになる可能性が高いから。
まとめると、才能(「幸運」を活かせる確率の大きさ)よりも幸運に遭遇する回数の方が人生に影響を与える。
野球選手に喩えるなら、人生で一番成功するのは打率の高いバッターではなく、幸運にも一番打席に立つことができたバッターだったということになる。
動画によると、実際の成功者のインタビューで「私が成功したのは運ではなく、努力や苦労があったから」というのは後知恵バイアスによるもの。物事が起こった後で、これこれの理由でその物事が生じたと勘違いしてしまう。 実際には運が良かったために成功したのに、自分の力で成り上がったと錯覚してしまう。
上記研究チームによる別の実験
研究チームはこれを元に、もう一つ別の実験を行った。
研究資金を科学者にどう分配すればいいのかをシュミレーションしたもの。
①平等基準。全科学者に均等に配分する。
②能力基準。過去の業績に応じて、優秀な成績のものほど多く予算を配分する。
③選択的ランダム。優秀な成績の科学者のグループには予算は多めだが均等に配分し、残りを均等に他の科学者で分配する。
結果、最良の選択は①の平等基準だった。一番最悪の戦略は②の能力基準だった。
ここでも成功は幸運に依存することが分かった。誰が成功するかわからないから、ランダムに配分した方が最終的に大きな成果が得られる。
実験結果から得られた二つの事実
実験結果は二つの事実を示唆している。
最も成功した人は、最も才能のある人ではない。
最も才能のある人は社会に埋もれているということ。
大富豪は最も才能のある人間とは限らないということ。
人生の成功は、才能よりも幸運に遭遇する回数が重要であること。
だから常にアイデアを考えたり、他者と友好に接するなどして幸運に遭遇する回数を増やすことが重要であるということ。
人生の成功は適切な時と場所が重要になる。