小説『無題』
夏。じりじりと灼けつくような陽射し。青葉が鮮やかな緑を返す。蝉の声が渦巻くように生命を歌い、僕の身体のだるさを強調する。
昼、12時。僕は路地裏を歩いている。こんな暑い中歩くのにはもちろん理由があって、飼っているみーちゃんを探している。
みーちゃんは今朝、突然いなくなってしまった。
家中探しても見つからず、ごはんを準備する音をわざと大きく出しても出てこなかった。
そのあと、窓が少し開いていることに気がつき、みーちゃんがそこから脱出したのではないかと考え、こうして歩き回っている。
みーちゃんは、毛の色は黄金色、マンチカンという種類の__という動物だ。見かけたら連絡して欲しいと貼り紙をしなくてはいけないかもしれない。
ふと、路地裏の角から覗く黄金色のしっぽが目に留まり、僕は急いでそれを追いかける。
「みーちゃん!」
名前を呼びながら角を曲がる。けれど、みーちゃんの姿は見えない。確かに見えたと思ったのに――がっくりと肩を落とす。
それでも、もしかしたら何処かに隠れているのかもしれない。だらだらと流れる汗を拭って周りを見渡す。すると、道の奥に看板が出ているのが見えた。
「喫茶……みーちゃん?」
こんなところにお店なんてあったのか。しかも、みーちゃんとおんなじ名前だ。……一刻も早くみーちゃんを探したいのは山々だけど、朝から探し歩いて、流石に喉がカラカラだった。それに気づくと途端に身体から力が抜けてくる。
「ちょっと、休憩しようかな……」
もしかしたら、同じ名前のよしみで、店員さんがみーちゃんを見かけている……なんてことがあるかもしれない。不安を押し隠すように言い訳して、僕は喫茶店へと歩を進めた。
「いらっしゃいませー」
店内は、冷房完備だった。涼しい風が火照った身体をなでてくれた。薄暗い間接照明に照らされて、趣味のいいテーブルが影を作る。奥にはキッチンがあるようだが、いまいち見えづらい。
接客は、ひとまず“いらっしゃいませ”で終わりらしい。愛想のいいんだか悪いんだかわからない店だ。僕はふぅ、と一息吐いて、空いてる席に座った。備え付けのメニューを開くと、オススメと銘打たれた1ページ目には、_____や____が並ぶ。