二月(村山槐太)
君は行く暗く明るき大空のだんだらの
薄明りこもれる二月
曲玉の一つらのかざられし
美しき空に雪
ふりしきる頃なれど
昼故に消えてわかたず
かし原の泣沢女さへ
その銀の涙を惜み
百姓は酒どのの
幽なる明りを慕ふ
たそがれか日のただ中か
君はゆく大空の物凄きだんだらの
薄明り
そを見つつ共に行くわれのたのしさ。
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ああ君を知る人は一月さきに
春を知る
君が眼は春の空
また御頬は桜花血の如赤く
宝石は君が手を足を蔽ひて
日光を華麗なる形に象めり
また君を知る人は二月さきに
夏を知る
君見れば胸は焼かれて
火の国の入日の如赤くたゞれ
唯狂ほしき暑気にむせ
とこしへに血眼の物狂ひなり
あゝ君を知る人は三月さきにも
秋を知る
床しくも甘くさびしき御面かな
そが唇は朱に明き野山のけはひ
また御ひとみに秋の日のきらゝかなるを
そのまゝにつたへ給へり
また君を知る人は四月のまへに冬を知る
君が無きときわれらが目すべて地に伏し
そこにある万物は光色なく
味もなくにほひも音も打たえてたゞわれら
ひたすらに君をまつ春の戻るを。