世界システム論
近代以降の世界全体を単一の社会システム,すなわち世界資本主義体制としてとらえ,その生成・発展の歴史的過程を究明することによって,さまざまな政治経済的諸問題,とりわけ国家間関係,経済的な支配・従属,世界秩序の構造と変動などを全体的に究明しようとする理論。アメリカの歴史社会学者 I.ウォーラステインによって創始された。まず世界をアメリカおよび他の工業諸国から成る「中心」と,発展途上国から成る「周辺」に分けた上で,前者によって後者が搾取され,さらに両者によってその周辺が搾取されているとする。富める国々は,周辺地域から稼ぎ出した余剰のうちわずかな部分しか周辺地域に配分しない。他方,周辺に属する国々にも「周辺の中心」,すなわち世界経済システムの中心に位置する外国資本と結びついた特権階級や民族ブルジョワジーが存在する。このように世界を素描する世界システム論は,明らかにマルクス主義的な考え方を下敷きにしている。ここには,国家間に固有の競争や対立への言及はなく,資本主義社会における階級闘争の分析が世界全体に拡大・適用されるのである。 川北稔著『世界システム論講義』によると、近代世界を一つの巨大な生き物のように考え、近代の世界史をそうした有機体の展開過程としてとらえる見方のこと。 今日の世界は、比較的少数の工業的な「先進国」と、農業的な「後進国」とに分かれている、と考えられているのである。ヨーロッパ、アメリカ、日本など、いわゆる「先進国」の多くは北半球にあり、アジア・アフリカ・ラテンアメリカに多い後者は、概して南半球にある。両者の格差こそが、「南北問題」として知られる人類史上、解決のはなはだ困難な課題の一つである。これが、かつてふつうに考えられてきた近代世界史の構図であった。 川北稔曰く、私たちが「国」として意識している近代の国民国家を一つの単位としてみる、いわゆる一国史観は今日ではもはや通用しない。 いまや国境の意味は薄れ、国民国家は溶融の気配をみせているから。
国民国家は所詮は近代以降に生み出された産物であり、「国」として歴史を見るというのは意外にも奇妙なことである。
そこで上記引用のような見方をやめて、世界を統一された一つの世界として捉え、世界史を考えてみようというのが『世界システム論講義』の主張である。
スペインとポルトガルが切り開いた「大航海時代」が、世界の一体化、つまり、大西洋や北海をもまたぐ大規模な分業体制を意味する近代世界システムの成立をもたらした。