ワトソンの恐怖条件づけの実験
ワトソンら(Watson&Rayner,1920)は、アルバートという生後11ヵ月になる男児を対象に、次のような恐怖づけの実験を行なった。 まず、アルバート坊やに白ネズミを見せると、坊やは手を伸ばして触ろうとする。その後、白ネズミが現れたときには背後で鉄の棒を金づちで激しく叩くと、坊やは激しく飛び上がって倒れ、マットに頭をつけてしまう。これを数回繰り返すと、白ネズミを見せただけで泣き出し、ハイハイして逃げ出す。数日後、白ネズミを見せても、また白ウサギや白いあごひげのサンタクロースのお面を見せても、泣き出して顔や体をそむけたという。ただし積み木を見せれば手を伸ばして遊び出す。
坊やは、実験の前は、白ネズミなどに興味をもち、手を伸ばしていたが、実験後、白ネズミに対しては、一種の古典的条件づけの手続きによって、また白ウサギ、サンタのお面に対してはその般化によって、それまでなかった恐怖の反応が生じたことになる。激しく大きな音や、突然支えを失うことなどは、生まれつきもっている恐怖の情動的反応である。一方、暗闇に対する恐怖、動物や昆虫に対する恐怖などは、経験を通して条件づけられた反応であるという(Watson,1913)。 ワトソンは、行動主義を唱えるに当たって、動物やヒトの行動がいくつかの基本的な反射と種々の条件づけを通して獲得された行動から成り立つとする極端な経験主義の主張をした。彼は、「私に1ダースの健康でよく育った乳児と、彼らを養育するための私自身が自由にできる環境とを与えてほしい。そうすればそのうちの1人をランダムに取り上げて訓練し、私が選ぶどのような形の専門家にでも育て上げることを保証しよう。その才能、好み、傾向、適正、先祖の民族とは関係なしに、医者、法律家、芸術家、大商人、そう、乞食や泥棒にさえも……」 (Watson,1930)とまで述べている。こうした発言や、乳児を恐怖に陥れる前述のような実験は、その極端な行動主義的主張とともに、人間性を冒涜する不遜な態度として非難されることとなった。しかし、上に紹介した実験は、恐怖に関する古典的条件づけの最初の実験である。さらにそれが、その後の行動療法の研究に刺激を与えたことも、また事実である。(心理学[第五版 補訂版]用語集) ワトソンは行動主義の立場から、アルバートという男児を対象に、恐怖に関する古典的条件づけの実験を行った。
アルバートは最初白ネズミを見かけると触ろうとしていたのにもかかわらず、実験の結果、白ネズミを見ると逃げ出すようになった。