マイケル・パウエル『血を吸うカメラ』感想
映画監督志望で写真撮影が趣味の根暗な青年が主人公
主人公が根暗であり、よくこんな根暗な人間を演じることができるし、根暗に撮れるなと感心した
ダッフルコートを着ているやつはだいたい根暗だろう(暴論)
https://youtu.be/RHAcrEaDdMA?si=cP2ukJLIBEgLtIVS
主人公は科学者(心理学者か?)の親父に恐怖と不安の研究のため観察対象とされ、いろいろされた。それでおかしくなったわけだが
ちなみに原題は『ピーピング・トム』である
そんな観察対象にされた主人公自身が窃視症の症状をもつようになり、カメラを持ち続けて世界を覗くようになる
親父にのぞかれ(観察され)続けた主人公は、自分自身世界をカメラでのぞくことに囚われるようになる
そんな彼の観察の対象となるのは歪んだ女性の表情のようだ
殺される女性の歪んだ顔に興味を持ち、殺人を犯しまくる
なぜ女性なのだろう
対象をカメラで覗きながら殺す
「殺すだけでは満足できない男」というセリフが出てくる
おそらく主人公の美に関するこだわりがある
序盤に美しい顔をしているが、唇周辺に"あざ"がある女性に主人公がえらく興奮するくだりがある
端正な美では満足せず、それが歪む瞬間を捉えることに執着している
むしろその歪みこそ美しいと感じているのか
殺人の瞬間のみならず、自分のやった屍体を見た女性が叫ぶ表情をキャッチすることも忘れていない☜このシーンを見て、かなり厄介な奴だなという印象ができあがった
このシーンには感心してしまった
ただの快楽殺人鬼でなく、女性の歪みに常時執着している奴であることを細かく強化している
おそらくそういったものこそ、世界の本質だと考えているのだろう
途中親密になる女性が、かつての自分の母の部屋にたまたま住んでいるくだりがある
主人公が唯一心を許せるのがその女性のみのようである
母を感じているのかな
主人公はその女性のみカメラというフィルターでは覗かない
彼の歪んだ癖も母が関係してそうである
盲目の女性(親密になる女性の母親)に彼の特殊な病気に気づかれ、諭されるシーンかある(殺人までは気づかれていない)
このシーンも面白い
覗く人間は覗かれている人間を自分と同一視できるから覗くと言うが、覗きにより性的快感を得る人間は覗かれる快感も不快感もわかっているから覗きに執着するのであろうから、幼少期、父に覗かれ続けた主人公が覗く側に行ったのはよく理解できる
この映画はフロイト引用して解説してそうなものがたくさんありそうだが、特に調べてはいない
ちなみに精神科医もでてくる
映画撮影の場面が頻繁に出てくるが、これも人間を覗きまくる映画業界にいる監督による皮肉も含まれていると思われる
世界自体が窃視症の徴候をはらんでいるということだ
この世界総窃視症みたいな状況は今現在も変わってはいない。インターネット以降さらに加速し...みたいなありがちなこと言うなよ!
1960年はヒッチコック『サイコ』も公開された年らしいが、サイコホラーが本格的に映画ジャンルとしてスタートし始めた年なんだろう 病的だが、表面的なサイコパス映画ではなくて主人公の内面を構成する要素が映画自体に重層に組み合わされて、かなりおもしろい映画だと思う
映画自体がひとりの人物を描く/我々がそのひとりの人間をのぞく、という構成になっている
主人公に関する感想に終始してしまったが、最後に女性がレンズで覗かれて歪む絵はなかなかに気持ち悪い
「この世で一番恐ろしいものは?」「恐怖そのものだ」「だから仕掛けを考えた」
この仕掛けが恐ろしい
🌾追伸
ウィキを読んでいたらこの映画によりパウエルの名声は失墜したとのこと
性的・暴力的な内容から、公開当時はメディアや評論家から酷評を浴び、イギリスを代表する映画作家の一人ともみられていたパウエルの名声は失墜した。パウエルはこの映画の後はほとんど映画を撮ることができないまま死去した。
マジかよ