アイデンティティ
自我によって統合されたパーソナリティと社会との関わりを説明する概念。同一性,主体性,帰属意識などと訳される。哲学用語として用いられていたが,1960年代以降社会学,心理学で広く使われるようになった。社会学におけるアイデンティティ概念を定義したのはエリクソンで,変化する環境の中で自己がさまざまな役割を演じるとき,そうしたさまざまな〈私〉を統合する変わらない自己をアイデンティティと呼んだ。エリクソンは,フロイト理論を基礎に,個人の発達過程のなかでとくに青年期にアイデンティティの危機が顕在化するとしてこの概念を定式化したが,それは個人と社会の関係性をとらえるための概念として広く受け入れられ,適用されてきた。現代におけるアイデンティティの喪失の問題は個人と社会の不適合の現象として,社会学の研究課題となっている。また最近では,人類学や政治学において,アイデンティティの,個人を他者との連鎖の中に位置づけ,個人を超えた想像の全体へと結びつける側面が注目され,近代世界における〈想像の共同体〉としてのネーションやエスニシティを,個に強固な集団的アイデンティティを付与する物語としてとらえる視点が有力となっている。 自己同一性と訳されることが多い。
様々な“私”を統合する自己、またはその感覚のこと。
「『自分は何者か』『自分の目指す道は何か』『自分の人生の目的は何か』『自分の存在意義は何か』など、自己を社会のなかに位置づける問いかけに対して、肯定的かつ確信的に回答できること。
〈アイデンティティ〉とは、それによって、この時この場所でも、過去でも未来でも、自分が同一人物だと感じるところのものである。それは、それによって、ひとがそのひとと認められるところのものである。私の見るところでは、多くの人々は、自分たちが、揺りかごから墓場まで、同一の持続的存在であると考えようとする傾向がある。しかも、このような〈アイデンティティ〉は、それが空想であればあるほど、一層後生大事に取って置かれるのである。
『自己と他者』、R・D・レイン、志貴春彦・笠原嘉訳