『ユートピア』
『ユートピア』(ラテン語: Utopia、正式タイトル:ラテン語: Libellus vere aureus, nec minus salutaris quam festivus, de optimo rei publicae statu deque nova insula Utopia)は、イングランドのトマス・モアによる1516年の著作。
全文ラテン語で書かれており、その内容は主に、虚構の島の社会、宗教、社会的政治的習慣について述べた枠物語である。現代の「ユートピア」という言葉から受ける理想郷のイメージにもかかわらず、モアがこの本で述べた社会は、実際には決して完全な社会ではないと広く受け止められている。むしろ、想像上の土地の通常とは違った政治的考えと、現実世界での混沌とした政策とを対比して、ヨーロッパの社会問題について議論するための、政策要綱とすることを望んでいたとされる。 ヒスロディという名の人物(アメリカ大陸を発見したと言われていたアメリゴ=ヴェスプッチの航海に同行したという設定になっている)が対話するという形式をとり、理想社会としてユートピア(モアがギリシア語から造語したもので、「どこにもない国」の意味)という国を仮想し、イギリスの制度や社会を批判した。彼の描いたユートピアでは、人は6時間しか働かず、余暇を教養を高めることに充てることができ、僧とか貴族は存在せず、誰もが満ち足りた生活のできるものであった。一方で奴隷の存在はそのまま認めるなど、当時の限界を示している。また、当時進行した、新興地主による農地の囲い込み(第一次エンクロージャー)を、「羊が人間を食べている」として批判したことも重要。『ユートピア』発表の翌年、ドイツでルターの宗教改革が始まる。