『ムージル伝記1』
オビ文
「真正さ」という悲劇の生涯
ユートピアを追求しながらも、志なかばにして斃れた「厳密性と魂の作家」ムージルの生涯を通して、十九世紀末から二十世紀にかけての、人間にひそむ可能性発現の時代、未曽有の残虐と繁茂する思想の時代をも生き生きと描き出す
裏
ドイツ的徹底性による実証的研究。しかし無味乾燥な事実の総覧ではない。若きムージルの読書、彼の触れた思想の内容にまで立ち入った、息づく思考の成熟の過程の記録である。のみならず、当時の医療水準、軍隊組織の実態にまでおよぶ広汎な文化史、生々しいヨーロッパ現代史となってもいる。これはもはや、単なる伝記ではない。――早坂七緒(訳者)