『オイディプス王』のプロット
見出しは岩波文庫による(岩波文庫では劇進行の区切りとなる各箇所に見出しがついている)。
大まかには「プロロゴス」(序章、プロローグの由来)、「エペイソディオン」(第一〜第四、エピソードの由来)、「エクソドス」(終章、エピローグの由来)で構成されるが、各合間には「パロドス」「スタシモン」などの合唱隊(コロス)の斉唱が挿入されることで、劇進行の時間が区切られている。 別に舞台上の俳優と踊り場(オルケストラ)にいるコロスとが交互に歌う歌が挿入される部分も見られる(「コンモス」という)。
このページでは、パロドスやスタシモン、コンモスなどの歌パートは省略する。
『オイディプス王』は時系列的には物語の終盤の場面から始まり、オイディプス自身が自分の呪われた出生を明らかにしていく話だと言える。
(※岩波文庫にはプロロゴスの前に「劇がはじまるまでの出来事のあらすじ(訳者)」がある)
プロロゴス(序章)
物語は、オイディプスがテバイの王の座に就いた後、災厄がテバイの都を襲い、人々がオイディプスの元を訪れる場面から始まる。
オイディプスは打つ手がないので、彼の妃イオカステ(本当は母親)の弟クレオンをデルフォイのアポロン神殿へ派遣し、彼の帰りを待っている。
クレオンが持ち帰った神託は「前王であるライオスを殺害した下手人を死でもって罰するか国から追放することで災厄は去る」という。
第一エペイソディオン
オイディプスは民衆にライオス殺しの捜査を布告して行方を求める。
その後、コロスの長の策として、盲目の予言者テイレシアスを自分の元によこす。そのテイレシアスに「前王のライオスを殺害したのは他でもないオイディプスあなた自身であり、あなたがこの地を汚す不浄の罪人なのだ」と聞かされ、オイディプスは憤慨する。
問答の後、テイレシアスはオイディプスに「今あなたの開いている目は盲目となり、乞食の身となり、杖をついて他国の地をさまよう運命となる。そして自分の父がライオスであり、父と同じ女に種を蒔きかつその父の殺害者であることが知られるであろう」と告げ、去っていく。
第二エペイソディオン
前節の続きで、オイディプスは彼の妃の弟クレオンが自分の王の座を奪おうと予言者を自分の元に差し向けたのだと思っている。冒頭はそれを受けてのクレオンとオイディプス王の対話。
妃イオカステが諍いを収めようと間に入ってくる。クレオンが退場した後、オイディプスはイオカステから前王ライオスが受けた神託の内容と、殺された場所等の詳細を聞く。神託曰く、ライオスはイオカステとの間に生まれた子供(オイディプスのこと)に殺される運命にある。
これらの話を聞き、不安になるオイディプス。第一エペイソディオンで聞いた盲目の予言者テイレシアスの言葉が真実なのではないかと疑い始める。ここでオイディプスは過去に自分が受けたデルフォイの神託の内容を語る。曰く、オイディプスは実の母親と交わり、人々の正視するに堪えぬ子種をなし、あまつさえ実の父親の殺害者となるだろう。そのときのオイディプスの不安な語りは読者(僕)の胸を深く打つため少し引用。
この世の誰がわし以上に、神々の嫌われ者でありえようか。このわしこそは、よその者たるとこの町の者たるとを問わず何ぴとからも、家に迎え入れられることも、話しかけられることも許されず、すみかより突き出されなければならない人間なのだ。しかもこのことを布告したのは、この呪いをわが身にかけたのは、ほかならぬこのわし自身なのだ!
この不安を確かめるべく、ライオス殺害時に一緒にいて生存した羊飼いを自分の元によこすようにコロスの長に頼む。
第三エペイソディオン
イオカステはオイディプスのご乱心に心を痛め、アポロンの祭壇を訪れる。そこでオイディプスの故郷コリントスからの使者が現れる。オイディプスの育ての父親ポリュボスが老衰で亡くなられたので人々からオイディプスをコリントスの王に推挙されているとの話。そこでオイディプス登場。
使者からポリュボスはオイディプスの実の父親ではなかったことが聞かされる。使者は元羊飼いで、山でオイディプスを拾い、ポリュボスに献上した。また使者はライオスの家来の羊飼いからオイディプスを受け取っていたことが明らかにされる。
それを聞いて青ざめるイオカステ。オイディプスに「どうかもう自分の出生の秘密を明らかにされませぬよう」とお願いするが、その願いをはねつけるオイディプス。
第四エペイソディオン
オイディプスは上記のコリントスからの使者と共についに例のライオスの召使いの羊飼いと面会する。
羊飼いは始めは渋っていたが、確かにコリントスの使者に子供を与え、その子供がライオスとイオカステの子供(つまりオイディプスのこと)であったことが明らかにされる。ライオスから殺す命令が下っていたが、不憫で殺すに忍びなかったため、コリントスの使者に渡したのだと。そのためにこのような呪わしい結果になってしまったことが明らかになる。
エクソドス(終章)
報せの男がやってきてコロスの長に、妃イオカステが首を吊ったこと、オイディプスがその様子を見てイオカステの上衣を飾っていた黄金づくりの留金で自分の両目を刺したことを告げる。
盲目となり顔から血を滴らせたオイディプスが登場して自分の呪いの出生を嘆き、その後やってきたクレオンと対話する。クレオンは、オイディプスがこの地を去ること、2人の娘をどうか気遣ってやってくれというオイディプスの願いができる限り叶えられるように計らう。
オイディプスがクレオンに導かれてコロスの斉唱をもって宮殿を歩み去る。以下の詩で物語が終わる。
おお、祖国テバイに住む人びとよ、心して見よ、これぞオイディプス、
かつては名だかき謎の解き手、権勢ならぶ者もなく、
町びとこぞりてその幸運を、羨み仰ぎて見しものを、
ああ 何たる悲運の荒浪に 呑まれて滅びたましいぞ。
されば死ぬべき人の身は はるかにかの最期の日の見きわめを待て。
何らの苦しみにもあわずして この世のきわに至るまでは、
何びとをも幸福とは呼ぶなかれ。