「陰謀」ではなく「流れ」
――大きな樹がぐらついていますねえ。なぜだろう。
――ふーむ、虫が巣食っているのじゃないか。
――風も強い。
――このまえ、ここに雷が落ちた。
――おかしくないかい?
――というと?
――悪いことがつづくよ。
――まあ、ね。
――虫の卵はどこから来た(あの穴はどうして空いた)? 風はどこから吹いてくる(おや、防風柵が壊れているぞ)? 雷はどうしてあの樹に落ちた?
――「偶然」……でしょうな。
――しかしそうすると、対処法が思いつかない。そこでだね、「原因」を洗い出さなければならない。
――ふーむそうすると、「偶然」をよーく観て、「原因」を見つけ出す、のでしょうかな? ――実は……あの樹の隣の屋敷の大家はね、あの樹が邪魔なんだ。新しく家を建てたいんだよ。
――ほほう。それはなにか関係があるのですか?
――「原因」が「大家」だとすると……すっきり、うまくまとまらないかい。
――ふむー、「証拠」は?
――まずは「証拠」よりも、「原因」がある、というところが大事なんじゃないか?
――ふむー、しかし、虫食いと、風と、雷……これがもう「証拠」ではないですか?
――そりゃなんの?
――あの樹がぐらついている「証拠」。
――うーむ?
――さしあたり、樹がぐらついている「原因」は、「偶然」であって、「流れ」。
――はあ。じゃあどうすればいい?
――虫の卵を駆除しましょ。防風柵を直しましょ。避雷針を大家にたのんで作らせればいい。
――むふー。じゃあちょっくら、行ってくるよ。あの樹とも長い付き合いだからな。