Vomir
Romain Perrotというフランス人は、Vomirという名前でノイズ・ミュージックや実験的な音楽活動を行なっている。 1973年生まれで1996年から音楽活動をしているが、300以上もの作品をリリースしている。
どのアルバムを切り取っても(一見)似たようなノイズの壁が現れるだけで、こんなものをよく300以上もリリースしているなと個人的には思う。正気の沙汰ではない。(これは褒め言葉である)
彼はハーシュ・ノイズ・ウォールという運動の先頭に立っており、これは現在、ノイズ・ミュージックのサブジャンルとして確立されている。一貫性のある、ひるまない、包み込むようなノイズの壁という意味合いで、彼の美学は、"No ideas, No change, No development, No entertainment, No remorse"(アイデアも、変化も、発展も、娯楽も、悔いもない)である。 彼の音楽を聴けばわかるが、そこには一切変化しないノイズの壁があるだけで、彼は何も変化を促さない。再生された瞬間にすべて手放してしまい、音楽は発展しない。これは彼の長いキャリアにおける音楽性もそうである(彼のVomirとしての音楽スタイルは一貫してずっと同じである)。ライブなどでも、彼は自分自身と観客にビニール袋を被らせ、個々を断絶した状態で、不動の状態を保ったまま立ちすくんでいるだけである。
https://youtu.be/R3pHxQc2YkU
彼は音楽理論や楽器の訓練も受けていないらしいが、彼自身練習によりスキルを伸ばすこと目指していない。
彼の目指すところはとにかく「反」アプローチであり、音楽性の進化や成長など一切拒絶する。
https://www.youtube.com/watch?v=oyQDU7qBwfc&t=617s
個人的な感覚として、彼の音楽ーー変動しない連続的かつ一定のまとまりを持ったノイズーーを聴いていると、一切変化していないはずが、微妙に変化しているように聴こえてくる。これは自分の体調や時間、聴く場所によっても変わってくる。楽曲の変化というものが、演奏者側の振る舞いではなく、リスナー自身の中から促がされるーーミニマル・ミュージックにもそのような効果があるが、Vomirの音楽にもそれと同じ感覚がある。 一定の、変化しない音楽を聴いていると時間の感覚がおかしくなっていくが、Vomirを聴きながら文章を書いていたら、あっという間に私の時間も経ってしまった。