心理療法の科学性とは何か
心理療法の科学性とは何か。これには大きく2つある。一つは治療効果を質問紙などで測ることで、もう一つは理論の検証である。前者は不可能とまではいかないが、あまり厳密なものとも言えない。後者は不可能である。
前者について、治療効果を質問紙で測ることには一見容易に見えるが、実は大きく三つの難しさがある。一つ目は継続的に測定すること、二つ目は測定した結果がその心理療法の効果であると判定する必要があること、三つ目は他の心理療法や心理療法を実施していない場合との比較をしなくてはいけないということである。一つ目であるが、心理療法の直後に質問紙による測定を実施してうつの程度が減少していたとする。だが次の日になって抑うつ感が戻ったとすれば、それは治療の効果とは言えない。ここから継続的に質問紙調査を行う必要があることがわかる。そこで、3か月後、6か月後、1年後に質問紙調査を行うことにしてみよう。だが質問紙を行う近辺に、いいこともしくは嫌なことがあったとしたらどうなるか。こういう日常の出来事、つまり治療以外の余分な変数が混入してしまうのである。それでは、毎日質問紙調査を実行してその平均値を考えてみるとどうか。これは確かに精度は高まるが、被験者にかかる負担が大きなものとなる。
二つ目には、測定した結果がその心理療法の効果であると判定する必要がある。例えば、認知行動療法を施した後に抑うつ感の改善が見られたとしても、それは認知行動療法の成果ではなく、信頼できる他者との関りを得られたことによる安心感などが作用している可能性もある。この場合も関係する変数が膨大過ぎるため、認知行動療法の効果だけに限定をして調べるということはほぼ不可能に近い。
三つ目には、他の心理療法を実施した場合や心理療法を実施していない場合との比較をしなくてはいけないということである。この場合も、公正を期するならば、同一人物が同一人物に実施するのが望ましい。だがそれは不可能だろう。なので実際には人を変えて実施することになる。しかしそうなれば様々な問題が生じる。例えば、個人と心理療法との相性の問題やセラピストとクライエントとの相性の問題などの余分な変数が混入してくる。
このように治療効果を質問紙で測ることには一見容易に見えるが、実は意外と難しいということがわかるだろう。実際にはどこかの点で妥協をしながら調査を行うということになる。
理論の検証の方はまた別の機会に。
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